此のじょうかいな

 

 
 昔火の見の番所ヘ夕立様が落ちた。

落ちたのはいゝけれど大事な錠前を夕立様が持って行ってしまったので困った。

 どうかして取り返し度いとは思うけれど、相手が夕立様の事だで下手な話しも出来んし、

困って散々(さんざ)頭をしぼって考えて見たが、どうもいゝ智慧が出て来ん。

「お酒でも飲んだら、又いゝ考が出るかもしれん」と、(みんな)で酒もりを始めた。

だんだんお酒がまわって来ると(みんな) 
唄をうたい出した。

その中の一人、さそくのいいのがあって、数え唄の節で

 一つ火の見の錠前を 出しておくれよ雷さん

と歌い出した。それを聞いた他の人たちも

「こりや面白い」と云って(みんな)でそれに合わせて

 ひーとつ火の見の錠前を だーしておくれよ雷さん

と歌った。

 そうするとその歌が夕立様の耳に聞えたので、雲の間から一寸顔を出して見ると、

大勢の人達が盛に歌って居る。聞いて居るうちに段々面白くなって来たので、

夕立様は雲の中から降りて来て、火の見の上で見て居ると、

(みんな)がいよいよ輿に乗って来たと見えて歌いながら踊り出した。

見て居る夕立様も面白くて面白くてたまらん様になって、(みんな)

 出ーしておくれよ雷さん

と云った後へつけて

 このじょうかいな

と云いながら、盗んで行った錠前を皆の中へぽーんと投げ落して呉れた。

そこで皆は喜んで一層元気よく踊つて踊つて踊りまわった。

 一つ火の見の錠前を 出しておくれよ雷さん

 このじょうかいな

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