鍬を忘れた嘉兵衛の話





                                                                                         
                  





















 むかし或る所に嘉兵衛と云う百姓があった。

ある日頬冠りをして畑作りに行く途中で、向うの森に烏が何羽も居って、

「カヘイ、カヘイ」と啼いて居る。
                               
                  
嘉兵衛は腹を立てて、「何だ、烏め、人を馬鹿にせんな」                                                          

と、云いながら
石をぶっ付けて置いて行くと、

烏は余計に大きな声をして、
「カヘイクワハ、カヘイクワハ」と啼いて居る。

 嘉兵衛が畑へ行って、さて畑を作らっとしたら鍬がない。                      

「こいつはしまった、烏()。俺が鍬を忘れたんで、
   
それで()んな事を
云って啼いたんだな。此りゃあ困ったぞ」

と向うの森の方を見ると
先刻(さっき)の烏が今度は、

「アホー、アホー」と啼きながら、

嘉兵衛の頭の上へ(くそ)をひって置いて、何処かへ舞って行った。

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