娘が蛇になった話

 



  むかし山ん中に一人の猟師があった。

早く(かか)様に死に別れて、一人きりの娘を大事に大事にしとねて居た。

此の猟師は毎日猟に出かける時に、何時(いつ)でもきっと桶から味噌漬を出して食べ、

後は固く
(ふた)をして置いて、娘に

(わし)の留守に此の桶へは決して手を付けるでないぞ」と云いきかせて置いた。

 娘は一人で留守居をしながら、「父親が毎朝食べて行くあの桶ん中の物は何ずら」と考えた。

(おとう)さんが食べる位ならわしも食べたい、けれど帰ってから(おとう)さんに

叱られると困るで、まあよさず」と娘は我慢しとったけれど、

「たった一ぺんだけ位なら
(おとう)さんに知れる気づかいはない、

後でちゃんと先きの様に
(ふた)をしとけばいい、一ぺんだけ食べて見て」

と娘は桶の
(ふた)を取って中の味噌漬を一つ食べた。


  少し()つと喉が乾いて乾いて仕様がない、

台所(だいどこ)へ行って前での(いけす)へ行って(いけす)の水を飲むうちに飲むうちに、

とうとうその
(いけす)ん中へ入って(じゃ)になってしまった。

 父親が夕方帰って来て見ると娘が居らん 若しかと思って桶を見ると、

誰かが
(ふた)を取った様子だ急いで前での(いけす)へ行って見ると

娘の下駄がのいであるし、おまけに
(いけす)の波がもくもくと立って居るので、

「娘はとうとう
(じゃ)になっちまった」と云って父親は悲しがって泣いとった。

 桶ん中の物は本当は大蛇の味噌漬けで、猟師はきつい人にならっとして、

毎日毎日猟に出かける時にそれを食べて居ったのだった。

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