娘と猿


  
 
 昔一人のお爺さんがあって、そのお爺さんが一人の孫娘を
ひとねて居った。

その娘が大きくなってけっこうな娘になったら、山のお猿が「お嫁に呉りょう」

と云って貰いに来た。

 そこでお爺さんは「大事な娘をお猿なんかにやれるもんか」と云って断ったら、

お猿は怒って、お爺さんが苗代(なえしろ)を作れば苗代ん中を踏んだいく、

豆を()きゃあ(みんな)ほじくる、柿がなりゃあ(みんな)取って食っちまう。

 どうにもこうにもしようがないもんで、お爺さんがお猿に

「手前はどうしてそんな 悪戯(あた)をするんだ」ときいたら、

お猿は、「娘を俺にく呉れんでよ」とそう云った。

 お爺さんは悲しがって(うち)へ帰って来て娘にそのことを話したら、

娘は「そんなら猿ん(とこ)へお嫁に行ってやらず」と云って、

猿にそう云うと猿は喜んで娘をつれて山の自分の家へ帰って行った。

 娘は猿について行くと、此所らで云ったら、ほッきの様な(とこ)へ出た。

下を川が流れて居る崖の上の危ない(とこ)に一株、とても大きい奇麗な

花の咲いとるつつじがあった。

 娘はそれを見て「あの花がほしい」と云うと、

お猿は「よし来た」と、(すぐ)につつじの木へ登って行ってその花をとらっとしたので、

娘が「それじゃあない、その上の枝だ」と云う。

「よし来たこれか」

「それじゃあない、その上の枝だ」

「よし来た、これか」、

「それじゃあない、その一番先の、一番大きな花の咲いとるのだ」と云うと、

「よし来たこれだな」と猿は両手で力一杯にその枝を(おしょ)った。

その拍子に、猿が(あんま)り力を入れ過ぎたもんで、枝と一緒に川ん中へ

ドブンと落ち込んで死んじまった。

 娘は(うち)へ帰って来てお爺さんにその事を話したら、

お爺さんは「お前は悧巧な()だ 猿をそうやってだましたのは感心だ

これから猿めが出て来て悪戯(あた)をせんで気楽になった」と喜んで、

それから永く幸福(しやせ)に暮らして居ったって。

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