鼠と和尚様




  昔或るお寺の和尚様の処へ鼠がお風呂桶を借りに来た。


 「和尚様 どうかお風呂桶を貸しておくんなんしょ」と云うので

 「ヤレお安い事だ」と云って心よく貸してやった。

 暫くすると「和尚様、お湯が沸いたで来てお入りな」と鼠が呼びに来て呉れた。

 「そりゃあおかたしけ」と云って、和尚様は鼠の家へお風呂貰いに行った。

 お風呂に入って居ると、鼠達が向うの方で唐臼を()く音が聞えて来る。

   今年(こと)しゃ嬉しや猫の声や聞かん ガタスト ガタスト

と唄いながら臼を挽いて居る。

 それを聞いてお和尚様は「こりゃ面白い、一つ鼠を(おど)かしてやらず」と思って、

よせばいいのに「ニャーゴ」と猫の真似をして見た。

 そうすると俄に 「ガタガタチューチュー」と家中が大騒ぎになってしまったので、

和尚様もびっくりしてお風呂から飛び出し着物を抱えてお寺へ逃げて帰った。

 そうしてよく見ると、大事な(ふんどし)を鼠の家へ忘れて置いて来た、

  今更頭を下げて貰いにゃあ行けず、和尚様も大損(おおぞん)をこいた。

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