仁王様の夜遊び





  立て石に立石寺(りっしゃくじ)と云うお寺があるが、其処のお寺の仁王様は、

朝から晩まで仁王門の中に立って
ばっか居るので退屈で退屈でたまらん。

「昼間は人に見られるでよくないが、(ようさ)くらいはちっとは遊んで歩いたって悪あかないら」

と云うわけで、
其の晩から仁王様が夜遊びに出かけた。

初のうちは、お寺の近所をぶらぶらして居ったが、そのうちに

だんだんと遠く、人家(しとや)のある方へまで遊びに行くようになった。 

ある(ようさ)の事、

仁王様はいつもの通り門の中から抜け出して、村の方へぶらぶらとやって来ると、

一軒の(うち)から明かりが射して居る。

そうっと側へ寄って障子の穴から覗いて見ると、一人のお婆さんが

糸車でブンブンブンブンと糸を繰って居る。

仁王様は初めてそんなを見て珍しいもんで一生懸命覗いて居ると、

そのうちにお婆さんが大きな(なら)を一つブーッと()った。

それが(あんま)可笑(おか)しかったので、外の仁王様が思わずクスクス笑ったら

其の声を聞いてお婆さんは、誰か村の若い衆でも居ったのかと思って、

「匂うか」と聞いた。

吃驚(びっくり)したのは仁王様で「仁王か」と云うをみると、

俺が此所に隠れて居る事をちゃんと見透したに違いない。

怖ろしい婆さんもあるものだと、急いで逃げて帰って来て、

もとの通り門の中へ入って知らん顔をして居った。

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