お風呂で沢庵を食べた婿殿

 



  山家(やまが)に馬鹿な婿殿があった。

その婿殿がある時嫁の里へお客によばれた。

母親は自分の子が嫁の里へ行って恥を()いちゃあ困ると心配して、

いろいろと婿殿に行儀を教えてやった。

嫁の里へ行ってお客になって、御ぜんがすむと其の後でお湯を呉れるで、

其の時には「どうぞ沢庵を と云うもんだ、そうして沢庵を貰ったら、

それでお椀のぐるりを結構に洗って、そうして其の沢庵を食べながら

お湯を飲むもんだ」と教えてやった。

 婿殿は教わった通り、嫁の里へ行って御馳走になった。

それがすむと婿殿に、「お湯か沸いたでお入りな」と云う。

婿殿は(うち)を出る時、

「お袋が教えて呉れたのは
此所(ここ)だな」、と思って、

早速お風呂へ入って、そしてそん中から大きな声で

「どうか沢庵をおくんなんしょ」と云った。

嫁の(うち)の衆はびっくりして、

ややけて大きな沢庵を一本持って行ってやったら、

婿殿は其の沢庵でお風呂のぐるりをゴシゴシと洗って、

其の後でその沢庵をお湯ん中でポリポリと食べてしまった。

嫁の家の衆はびっくりして、「あんな婿殿に娘はやれん」と云って(うち)へ連れて来てしまった。

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