お小僧と甘酒

 

 

 山寺に和尚様があった、其の和尚様は甘酒が大へん好きで、

いつでも一人で沸かして一人で飲んで、お小僧には一寸も呉れなんだ。

甘酒が沸くと、手水場(ちょうずば)ん中へ入ってお小僧に隠れて其処で飲んで居った。

お小僧はそれがいまいましくていまいましくてたまらん。

「今日は和尚様が留守のようだ、俺も甘酒を飲まず」と思って、

「火端で沸かして、もし和尚様が帰って来て見付かると

怒られるで、俺も手水場ん中へ隠れて彼所(あそこ)で飲んでやらず」と

茶碗へ一ぱい甘酒を汲んで、それを持って行って手水場(ちょうずば)の戸を開けたら、

和尚様が先きにちゃあんと入って居って、お小僧に内緒で甘酒を飲んで居った。

 お小僧は「此りゃあしまった」と思ったが、なかなかこすいお小僧だったので、

「ハイ和尚様お替り」と云って自分の持って行った甘酒の茶碗を和尚様に差ん出した。

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