和尚様と八の
   

                        
                     

                     
                     
                     

                     
                     









 


 むかしむかし或るお寺に和尚様とお小僧とが居った。

 和尚様は毎日毎日お隣の八の(かか)(とこ)ばっかりへ行ってお寺には一寸も居らず、

いつもお小僧が一人っきりで留守居をして居るので、

お小僧はごうが沸いてごうが沸いて(たま)らなんだ。

 それで或る日の事、和尚様が八の(かか)程大事にして居る金唐(きんから)屏風に、

一二三四五六七八九十と 真っ黒く大きな字を書いて置いて知らん顔をして居った。

 和尚様が八の(かか)(とこ)から帰って来て見ると、自分の大事な大事な屏風に

金釘(かなくぎ)を曲げたような下手な字で 一二三四 と書いてあるので、

怒ったの怒らんの、こんな悪戯(わるさ)をしたのは小僧に違いないと

 「コラ小僧 何故こんな悪戯(わるさ)をした」と怒鳴りつけた。

 そうするとお小僧は平気な顔をして笑って居るので、

和尚様は余計に怒って、

 「何でこんな事をした、早く云って見よ」
と云う。

 そこでお小僧は

 「和尚様 和尚様 そんねに怒らずに、それを判じて御覧なんしょ」と云う。

 「何、判じよだ。馬鹿奴、一二三四が何だ。それを判じて何になる」

と和尚様は真赤になって怒る。

 お小僧は「それでは(わし)が判じて見ます、いいかな、

一々二 三善もない四案して 五にんたんにかかわらず 六道の道を忘れ 

七條の袈裟を掛けながら 
八の(かか)を盗んで九労(苦労)する十寺(住寺)

いかが 斯う判じたらどうであります」とお小僧に云われて、

和尚様は一言もなく頭を掻き

 「小僧 小僧 降参したわ」と云って自分は隠居して、お寺をお小僧に譲ってやった。

次の作品へ