和尚さまと焼き餅





 むかし昔山寺に和尚様があった。

その和尚様は大へんにお焼きの好きな和尚様だった。

 毎日毎日お小僧にかくして一人きりでお焼きを食べとるもんで、

お小僧はいまいましい和尚さまだと思って居った。

 和尚様はお小僧が居っちゃあ気楽にお焼きが食べれんもんで、

或る日、「小僧小僧 今日は何処其処(どこそこ)に、建築(たてまい)があるで行って見て来い」と云いつけた。

 お小僧は、「和尚様は俺がが居ると邪魔だもんで、建築(たてまい)を見に行って来いなんて云うんだ。

よしよし今日はひとつ和尚様を困らしてやりましょう」と、

お小僧は建築(たてまい)を見に行くようなふりをしてお寺を出た。

 和尚様はお小僧が居らんようになったので、大きなお焼きをも幾つ

も拵えてそれを囲炉裡ばたへ並べて焼いて居った。

 お小僧はもういい時分だと思って、

「ハイ和尚様、行ってまいりました」と云って帰って来た。

 まだなかなか帰らんと思って居った和尚様はびっくりして、

あわててお焼きを灰の中へ埋けて知らん顔をして居った。

「小僧か、大へんに早かったな、して建築(たてまい)の様子はどうだった」と聞くと、

「ハイ和尚様、なかなか大きな家で、()ここに斯う柱が一本」と云いながら、

お小僧は火箸を持ってお焼きの埋けてある上へ、柱を建てる真似をしてずぼっとくすぐ、

そして火箸を上げると其の先きへ和尚様のお焼きがくすがって来る。

「おっと此れは御馳走さま さて其の柱の横には床の間があって、

其の柱が又立派な柱で」と又火箸をお焼きの上へくすぐ、

 そうして和尚様が食べずと思って居ったお焼きを、とうとうお小僧が

みんなほじくりだして食べてしまった。

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