西行様の旅 


  

  其の一

 むかし西行様が旅僧になって方々旅をして歩いた。

だんだん行くと向うの方に大きな家があったもんで、

西行様は其処へ行って、戸間口へ立ってお経を読んで居った。

 丁度その家では、其の時お焼きを焼いて皆で食べて居る(とこ)だった。

見ると穢い坊様が立って居るので、その家のお神さんは「あんな坊様に

お焼きを一つやるのは勿体(もったい)ない」と、そおっと半分こわって懐の中へ入れて、

残りの半分だけ持って行って坊様にやった。

 そうすると西行様はその半分のお焼きを貰って、

 もち月に片われ月はなきものを 

と歌をよんだ。

 すると其のお神さんが

 雲にかくれてここに半分 

と云って、懐の中から残りの半分を出して西行様にやった。

 

 其の二

 
 或る日西行様が道を歩いて居ると、おばばが出たくなった。

それで人の見とらん石垣(いしかけ)の下へ行っておばばをひった。

ひってしまってから後を見ると、そのおばばがもよもよと動く。

 よく見ると、亀が其の石かけの下で日向ぼっこをして居った上へ、

西行様がおばばをひったもんで、亀は背中が急によもたくなったので、

びっくりし
て歩き出したのだった。

西行様はそれを見て

 西行も幾()の旅はして見たが くそに四つ足これぞ初めて 

と云う歌を詠んだ。

 又その次ぎの日に西行様が旅をして行くと、又おばばが出たくなったので、

今度は山の中へ入っておばばをした。

 してしまって立つと、萩の木の枝がぴいんとはねて、

おばばが西行様の頭へかかった西行さまはおばばをする時に、

知らずに萩の枝を踏み曲げて、
その上へおばばをしたのだった。

そこで又歌を詠んだ。

 西行も幾世の旅はして見たが 萩にはねぐそ これぞ初めて


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