和尚とお小僧と馬糞

 

 
 むかし山寺の和尚様がお小僧を連れて
他所(よそ)へ行った。

お小僧はめったに遠くへ行った事がないもんで、何を見ても何を聞いても珍らしかった。

 それでやたらに和尚様の(たもと)を引っ張って、「和尚様和尚様」と云って話す。

和尚様はあんまりうるさいので、「小僧や小僧や、そう見たり聞いたりした

事を一々(しゃべ)るものじゃあないぞ」、と云って叱った。

 少し行くと汗が出て来たもんで、和尚様は(ふところ)から手拭(てぬぎ)を出さっと思ったが懐にない。

「小僧小僧、わしの
手拭(てぬぎ)を知らんか」と聞くと、小僧は、

「さっき和尚様の袂から落ちたで、わしは知らん」と云う。

「小僧小僧、落ちた物を見たら後から来る者は其れを拾って来るもんだ」、と教えてやった。

 和尚様は馬に乗ってだんだん行くと、()があたって暑くなった。それで、

「小僧小僧、笠を出せ」と云う。小僧が「ハイ」と云って和尚様に笠を()ん出したら、

その中に
馬糞(まぐそ)が一っぱい入って居った。

「小僧小僧、此の馬糞はなんだ」と云って叱ると、

「ハイ和尚様、落ちた物を見たら拾って来いと教えてお呉れたで、

さっき馬のお尻から此れが落ちたもんで拾って置きました」と答えた。

 







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