猿の婿殿

 


 
 むかし昔一人の百姓が山の中の畑作りに行った。

畑を作りながら独語(ひとりごと)のように、

「誰でも此の畑をみんな作って呉れたら娘を嫁にやるがなあ」と云った。

 そうすると、山の方から猿が一匹出て来て、その猿が見て居るうちに、

其の畑をみんな作ってしまった。

 そうしてその百姓に「約束通り娘を俺れにお呉れ」と云う。

百姓は困った事になったと思ったけれど、仕様がないもんで、

「そいじゃあ明日(あした)の朝(わし)の家まで来い」と云って返事をした。

 百姓は家へ帰って来ても、明日(あした)猿が来たらどうせずか知らんと、一人で心配して居った。

そうすると三人の娘のうちの総領の娘が来て、

「「お父さんはどうしてそんな顔をして居るの」、かと聞く。

それで「実は斯う斯う斯う云う訳で、娘を猿にやる約束をしてしまった。

猿が明日の朝娘を貰いに来るので困って居る(とこ)だ、気の毒だが

お前猿の所へ嫁に行っては来れんか」と云う。

「いやな事だ猿の嫁になんか誰が行くものか」と云って総領の娘は怒って行ってしまった。

 又二番目の娘が来たので、「猿の嫁に行って呉れんか」と頼むと、これも怒って行ってしまった。

 (しまい)に三番目の娘が来て、「お父さんどうしてそんな困ったような顔をして居るの」かと、

聞くので又其の話をすると、

「そいじゃあわしがその猿の所へお嫁に行ってあげず」と云う。

 百姓はそれを聞いて大へんに喜んで居ると、次ぎの朝、其の猿はもうちゃんと婿様になってやって来た。 

 三番目の娘は、「お父さん、大きな瓢箪を一つおくんな」と云って、

其の大きな瓢箪を猿の婿殿に持たせて、山の方へ一緒に上って行った。

 だんだん行くうちに、大きな川があって深い淵になって居った。

娘は猿に「其の瓢箪を淵ん中へ沈めて貰いたい」と云った。

 猿は大事な嫁様の云う事だもんですぐに承知して、其の瓢箪を抱えて淵ん中へ入って行った。

 そうして一生懸命になって其れを沈めっとするが、沈めりゃあ浮き、

沈めりゃあ浮き、いくら沈めっと思っても沈めれなんで困って居る(とこ)へ、

娘が山から大きな石を()らしてよこしたので、猿はとうとう淵ん中で死んでしまった。

 婿殿が死んでしまったので娘は又自分の家へ帰って来た。

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