猿と





 猿が川端の岩の上へ坐って、赤い顔をして山の畑から盗んで来た豆を

食べて居ると、其所へ(かわうそ)が河端の芦でこしらえた茣蓙(ござ)を持って、

水の中から顔を出した。

 猿はの持って居る茣蓙が欲しくて欲しくてたまらんし、

は猿が食べて居る豆が美味(おいし)そうで欲しくて欲しくてたまらなんだ。

 そこで猿が獺に

「お前は豆っちゅうものを食べた事が無いらが、こんなに美味(おいし)い物は無いぞ、

それにこの豆の皮を躰に張りつけて水のなかを潜って行って見よ、

そうすると魚がいくらでもとれるに」
って、猿はでたるまいの事を教えてやった。

 そうすると、は猿に向って、

「猿さん猿さん、お前は木の枝にばっか寝とって、茣蓙を()いて寝た事が無いら、

こりょう()いて寝て見よ、そりゃあいい気持だに」って、そう云った。

 そこで猿は「そんなら、この豆とその茣蓙を交換(ばく)ままいか」って云うと、

も「ウム
交換(ばく)む」ちゅうので、

猿はの茣蓙をむらい、は猿から豆を貰って、猿は山へは川へ帰って行った。

 山へ帰って来た猿は、「いい物を貰って来たで、これを敷いて今夜は気持ちよく寝ず」と思って、

高い木の上へ持って行って、枝と枝の股ん所へそれを敷いて、その上へ寝っと思うと、

茣蓙だもんでズルーンと滑って落ちちまう。

又それを拾って(のぼ)って行って、敷いて寝っとすると又ズルーンと滑って落ちちまう。

 一晩中木の上へ(のぼ)ったり下りたり(おんな)じ事を繰り返し繰り返しやっとったが、

どうしても滑り落ちてしまってとうとう一と寝入りもせずに夜が明けてしまった。

 そこで茣蓙を抱えて昨日の川端へ来て見ると、も寝ぼけた様な顔をして来とって、

「ヤア猿さん、昨夜(ゆんべ)はどうだった」と聞いたので、

 猿は頭を掻き掻き「木の股で寝っと思やあ滑り落ち、拾って(のぼ)って行って、

寝っと思やあ滑り落ち、とうとう一晩中眠れずにしまったわ」と云って

「お前のほうはどうだった」ときいたら

は「おれもえらい目にあっちまった、豆は食べられず、豆の皮を張って水潜りをして見ても

魚は一寸もとれず、一晩中水潜りばっかりして居って、こんなつまらん事は無かった」と云った。

 そこで猿は「こんな茣蓙は()らんで、お前に()やす」って云うと

 も「俺も豆はお前に返すよ」って云って、

 猿は又豆を持って山へ帰り、は茣蓙をかぶってドボンと水ん中へ潜って行ったって。
 
 
でたるまい    でたらめ 
 
ばくむ      交換する

 

次の作品へ