狸と茶釜




 昔、ある村にくず屋の爺さんがあった。

いくら稼いでもしじゅう貧乏ばかりして居るので、或る日

じっと考えてい居るうちにうまい事を思いついた。

 さっそく日頃仲良くしてい居る近所の狸の家へ行って、

 「お前にぜひ頼みたい事があるが、聴いてくれんか」と云うと、

狸はそれを聞いて、

 「何でもお前の云う事なら聴いてやるが、一体そりゃあなんだ」と云う。

  「外でもないが、狸 狸 一つ茶釜に化けては呉れまいか」

  「なに、茶釜に化けて呉れんかって、どんな頼みかと思ったらそんなことか、

化ける事なら造作はない、いつでも化けてやるぜ、そら よしか」

狸はそう云って、もうすぐに茶釜に化けてしまった。

 くず屋の爺さんは占めたと思って、早速その茶釜を風呂敷(ふるしき)

に包んで背負(しょ)って

それをお寺の和尚様の(とこ)へ持って()った。

「和尚様 和尚様 わしゃあ此の頃珍しい茶釜を手にいれた、

安くしとくで買っておくんなんしょ」と云う。

「どれどれどんな茶釜だか見しよう」と云って

和尚様が風呂敷(ふるしき)を開けてみると、成る程いい茶釜だ、

「幾らだ」と聞くと、

「和尚様のこんだから大まけにまけて三両だ」と云う。

和尚様は三両なら安いと思って、屑屋からその茶釜を買った。

そしてお小僧に

「小僧 小僧 此の茶釜を川へ持っていってよく磨いてこい」と云い付けた。

お小僧は和尚様に云い付けられた通り、その茶釜を川端へ持って行って、

砂を付けてごしごし磨くと、

其の茶釜が、
「小僧 小僧痛いでそおっと磨け」と云う。

お小僧はびっくらして飛んで来て和尚様に其の事を話すと、

和尚様は、「そいじゃあ、(わし)が行って磨いて見ず」と、

今度は
和尚様が川端へ行って、砂で其の茶釜をこすると、

「和尚 和尚 痛いでそおっと磨け」と云う。

「こりゃあ不思議だ、小僧 小僧 その茶釜へ水を一ぱい入れて、

火に懸けてお湯を沸かせ」と和尚様が云う。

 そこでお小僧は云い付けられた通り、水を一ぱい入れて、其の下へ火を焚き付けた。

 少し経つと其の茶釜が、「小僧 小僧 熱いでそろそろ焚け」と云う。

そのうちにだんだんと火が燃えて熱くなって来たので、其の茶釜からぬっと

狸が頭を出した。

そしてチョンチョンと足を出した。

お小僧がびっくらして居るうちに太い尻尾を出したかと思うと、

大きい狸になって山の方へピョンピョンと逃げてってしまった。

 和尚様は、それでとうとう三両損しちまった。

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