チンポンガラリンと三味線

 

 

昔或る(とこ)に三味線の大へん好きな人があった。

 「その人が「若しわしが死んだらどうか葬いの行列に三味線を入れて、景気よくやって貰いたい」

(みんな)の衆に頼んだ。

而しよく考えて見ると、

「どんねに三味線の好きな自分でも、本当に死んじまったんでは、葬式の時いくら三味線を

入れて面白可笑(おか) しくやつてくれたっても、それを聞く事も見る事も出来ん、

こりゃあ一つ死ぬ前に葬式の眞似をやって見たいもんだ」と、

(みんな)の衆に(なん)()でお葬いの仕度をさせ、自分は棺桶の中へ入って

その棺桶に穴を明けてそこから外の様子を覗いて見える様に拵らえ、

「サアやってくりょう」という訳で、和尚様を頼んで来て御経を上げてもらった。

さていよいよ野辺の送りという所で、今迄の葬式のチンポンガラリンの他に

三味線を入れて、「チンポンガラリン チチチンチン チンポンガラリン チチチンチン」

と景気よくやって行った。

棺桶の中から覗いて見て居ると、皆の足どりが三味線が入っておるので馬鹿に調子がいゝ。

「こりゃア面白い」とほくほく喜んで見て居ると、段々調子が乗って来て、

皆の足どりが浮いて来た。

その中に調子づいて道傍(みちばた)の豆畑の中へ行列が()り込んで、

夢中になって畑の中をぐるぐると廻っておる。

 「チンガポンガラリン チチチンチン、チンポンガラリン チチチンチン

(なん)たら面白いお葬いずら」と棺桶の中の男は喜んで見て居ったが、

さてよくよく見ると、その豆畑は自分が精出して作った大事な豆畑だった。

それとも知らずに行列はむしゃくしゃにその中を踏み廻って居る。

 「こりゃいかん」と思ったので、其の人は棺桶の中から

「豆畑踏む奴ア不届きな」と大きな声で呼ばった。

「チンポンガラリン チチチンチン 豆畑踏む奴ア不届きな

 「チンポンガラリン、チチチンチン 豆畑踏む奴ア不届きな

そうして何時(いつ)迄も何時(いつ)迄も調子づいた行列は、

豆畑の豆を踏み潰してぐるぐると廻って居った。

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