チチンプヨプヨの話

 


 むかし或る所に百姓のお爺さんがあった。


ある日山の上へ畑作りに行って、お昼になったので

お爺さんは持っていったお蕎麦の粉でおかいもちを掻いて


其れを食べて、残ったのを桑の木の(かぶっ)へ塗り付けて置いた。

そうして又畑を作って居ると、そのうちに、山雀(やまがら)一羽舞って来て、

其のおかいもちを食べずと思って、それにひっ着いて
ばたばたして居るので、

お爺さんは可哀相(かあいそう)に思って、その
山雀をつらまえて、

その足に付いて居るおかいもちを口で甞めて取ってやった。

するとどうした機会(はづみ)かで、

其の山雀がお爺さんの口の中へツルツルと入って行って(しま)った。

お爺さんがびっくりして居ると、そのうちにお臍の横へ山雀の尻尾(しっぽ)

チョンと出て来たので、ちょっと引っ張って見たら、「チチンプヨプヨ
ゴヨノオンタカラ」と啼いた。

「これは面白い」と、もう一ぺん引っ張って見ると、

又「チチンプヨプヨゴヨノオンタカラ」と啼く。

「これは面白い」と、(いつ)くらも引っ張って居るうちに、

とても良い事を考え出した。

「一つこれをお殿様に聞かしてあげず」と思って、

其の次ぎの日に
お殿様のお藪へ行って、竹をタンタンと伐って居ると、

「其処で竹を伐って居るのは何奴(どいつ)だ」と御家来が云う。

「ハイ日本一の屁ひり爺であります」と其のお爺さんが答えた。

「それじゃあ此処へ来て屁をひって見よ」

「ハイ」とお爺さんは返事をして、お殿様の前へ行って、お腹を出して山雀の尻尾を引くと、

「チチンプヨプヨゴヨノオンタカラ」と、
とてもいい声で啼いた。

お殿様は大へんお賞めになって、いろいろの宝物を沢山に下さった。

それを聞いたお隣の欲深爺さんは、「俺もお殿様に屁をひって聞かしてご褒美を貰わず」

と思って、お芋や何かを大へん食べておならの出るようにして、

其の次ぎの日にお殿様の藪へ行ってタンタンと竹を伐って居った。

そうすると、昨日のように御家来が来て、

 「其処で竹を伐って居るのは何奴(どいつ)だ」と云う。

「日本一の屁ひり(じじい)であります」と欲深爺さんが答える。

「それじゃあ、此処へ来て屁をひって見よ」

「ハイ」と返事をして、お殿様の前へ行ってお尻をまくった、

そうして(りき)んでおならをせっと思ったら、おならと一しょに

おばばがぐたぐたぐたぐたと出てしまった。

お殿様は、「不届きなやつだ」と大へんにお叱りになって、刀を抜いて

爺様のお尻をスタンと切った。

爺様はお尻を切られて「ええん、ええん」と泣きながら家の方へ帰って行った。

欲深婆様は今に爺様がたんとご褒美をもらってくるらと

思って待って居ると、向うの方で爺様の大きな声が聞こえる。

急いで(かど)へ出て見ると、向うの方から爺様が、

何か赤い物を
ぶら下げて大きな声をして来る。

それをみた婆様は、こりゃあ爺様が御褒美に赤い着物を貰ったので、喜んで呼ばって来るのだ

と思って、御馳走を(こさ)て待って居ると、


其処へ爺様はお尻を切られて赤い血をたらたら流して泣いて帰って来た。

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