ウントコショの話

 


 
 山家(やまが)の婿殿が或る時嫁の里へお客によばれた。

婿殿が行くと嫁の(うち) では「よう来て呉れた」と云って大へん喜んで、

お団子を(こさ)て御馳走にして呉れた。

 そのお団子が大へん美味(おい)しかったので、婿殿は家へ帰ったら

それを拵えて貰わっと思って其の名を教わり、家へ帰る途々口の中で

 「ダンゴダンゴ」と繰り返しながら帰って来た。

 そうすると途中に川があって其処に橋がなかったもんで、婿殿は

 「ウントコショ」と掛け声をして其の川を飛び越した。

 その拍子に折角今まで口の中で云って来たお団子の名をけっこう忘れてしまった。

 「さあ困った、何だったか」と婿殿は一生懸命考えて居るうちに、

 「そうそうウントコショだ」、と気が付いて、

 それから口の中で「ウントコショ、ウントコショ」と繰り返しながら、

家へ帰って来て(かか)様に、

 「今日お前の家へ行ったらウントコショっちゅう物を拵えて呉れた。

大へんうまかったでそれを拵えてくりょう」と云う。


  (かか)は「そんなウントコショなんちゅう物は聞いた事がないで出きん」と云うと、

 「手前の家で拵えて呉れた物を知らんちゅう訳があるか」と怒って

火吹竹で(かか)様の額をパーンとたたいたら、(かか)様の額へ大きな瘤が
出来た。

 すると、(かか)様はそれを撫ぜながら、

 「こんなお団子見たいな瘤が出来た」
と云って泣いた。

 それを聞いた婿殿はやっと思い出して、「うん、そのダンゴよ」と云った。

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