牛とお坊さん

 



 ある日、山寺のお坊さんがぶらぶらと道を歩いて居った。

ぽかぽかと暖かい日であった。

だんだん歩いて行って垣根の横を通った。

すると急に大きな「モーッ」と云う声がして、

垣根の破れた間から大きな角のある獣の頭がニューッと出た。

お坊さんは腰がぬける程びっくりしてとび出したが、えいかん来てから後を見ると、

別に追わいて来たのじゃあなかった。

お坊さんは今出て来た獣は何だったか考えて見たが、

どうしても思い出せなんだ。

お寺へ帰るまで歩きしな考えたがどうしても思い出せん。

一室(ひとま)へこもって考えたけれどそれでもわからん、

おかみさんは心配して「和尚様どうかしましたか」って聞いても

ろくろく返事もせずに考えて居った。

お夕飯になったので、おかみさんはそこへ御膳を持って行って、

「和尚様ご飯をお上りな」と云っても返事もせずに考えて居った。

おかみさんは無理矢理にたべさせた。

和尚様はご飯をたべる間も黙りこんで考えて居った。

御飯はたべてしまったがまだ考え付かん。

お坊さんはがっかりして「アーッ」と大きなためいきをついて

其処へ寝そべってしまった。

そうするとおかみさんが「和尚様和尚様、御飯をたべてすぐ寝ると

牛になるって云いますよ」と云った。

すると和尚様は手をたたいて「ああそうよ、その牛よ」と云った。

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