雪に埋もれた餅

 

 
 山寺にお小僧があった。
(なか)()いてお(なか)が空いて仕様がないけれど、

和尚様は(しわ)くて、御飯をお(なか)一ぱい食べさして呉れん。

仕方なしにお小僧は和尚様にないしょでお餅を盗んで食べたが

残ったのを隠して置く(とこ)がなかった。

彼所(あそこ)もいかん、此処(ここ)もいかん」と、散々(さんざ)捜した後に、庭の石灯籠の(そば)

掘って、其処(そこ)へ埋けて、その場を忘れんように、その上へ石をめじるしにして置いた。

 お小僧はそれで()っと安心して居ったが、夜もだんだん更けてお腹が空いて来ると、

埋けて置いたお餅の事を思い出して、食べたくて食べたくて仕様が
なくなった。

 そこでお小僧は起きて出て庭の方へ行って見た、そして(しるし)に置いた石を捜したけれども、

可哀相(かあいそう)何時(いつ)の間にか雪が一ぱい積って分からんようになってしまった。

 お小僧は悲しくなって

  雪降りて(しるし)の石も見えざれば

    埋けたる餅は土となるらん

と歌を詠むと、次ぎの間に寝て居た和尚様が聞きとがめて

「コラ小僧、此の夜更(よふ)けにそんな場で何をしとる」と云って叱ると

「ハイ和尚様、何時(いつ)知らん間に雪が積って、庭の景色が余り美しいので、

思わず一首やりました」と云う。

「ホホウそれは感心だ、そして何とやった」

「ハイ」

   雪降りて(しるし)の石も見えざれは

    埋けたる親は土となるらん

斯う詠みました」とお小僧は答えた。

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