死人を知らせる経戸棚
収録者 伊藤 善夫 信越放送飯田支局長 話 者 後藤 忠人 収録日 昭和56年10月27日 |
これは、まだうちのお袋が七、八つと小さいときの話で、ご先祖様の眠むっとる龍淵寺へ、
毎年、母親と御礼伺いに出かけとったそうだ。
二代前の和尚様やおばあ様は、お袋のことをとても可愛がっとくれて、
ある夜、和尚さまやおばあさまが、「ややも、おかあまと一緒に泊まってけ」と、ヤイヤイ
言っとくれた。
そいだもんで、その晩あ、和尚様の隣の部屋へ寝かしてもらったちゅう。
さあて、みんなが寝静まったころ、どっからか、ガタガタガタ、ガタガタガタッと、
おそうしい大きな音が聞こえてきた。
そいだが、まんだ子どもだし、なんのことかわからんもんで、そのまま朝まで眠っと
ったそうだ。
そのうち、夜が明けて朝ごはんをいただいとると、ふいに和尚様がやってきて、
「明日は葬式ができたなあ」と、おばあ様に言う。
「この病人は、おそうしい病んだ人だなあ」
「本殿にゃ、お経の本を詰めた戸棚があるが、檀家の人が死ぬと、必ずその戸棚の開く音がする。
重い病で死んだときにゃあ、ガタガタガタッとおそうしく大きい音だ。
それにくらべて眠るように死んでいくときにゃあ、戸棚の戸がスーッと静かに開く」
和尚様は、みんなにそう話してくれたそうだ。
和尚様は、その音を聞き分けちゃあ、どんな葬式ができたんか知ったんずら。