甚右衛門ノ神

収録者  伊藤 善夫 信越放送飯田支局長
話 者  鎌倉 民  収録日 昭和56年10月27日
                    

 木澤のほうの山に、甚右衛門(じんうえもん)という神を(まつ)ったとこがある。
昔ゃ、穀物のねえころは、山へ出かけて山作をしとったが、山がけをするさい、高い木
へ登って、はたきぎをした。

 あるひ、一人の男が、はたきぎをしとるとき、誤って木から落っちまった。
いっそ下まで落ちちまい、いちころにいきゃあよかったが、中途の
(また)へはさまっちまって、
どうにもならん。

一人で行ったもんで、だれも助けてくれるもんがなえ。
しかたねえもんで、苦しまぎれに、おーい、おーいと呼ばって呼ばって、ついに
そこで
死んでしまったと。

しばらくして、家の衆が、どうも帰って来んでおかしいと探しに出かけ、
木の叉ん中で亡くなっとるのを見つけた。
 その男の悲しく呼ばった声を聞いた者は、(たた)るちゅうが、須澤と程野沢の頂上にゃ、
いまでも甚右衛門ノ神として祀ったる。

そこは、須澤の横の仏沢というが、その頂上の山境(やまざかい)だ。
 それからしばらくして、ある男が山へ商売にいっとって、行かでもいいとこのなぎ場へ
出かけ、足を滑らし谷底へころげ落ちて死んじまった。

「おおかた、誘い神に()かれて一命を失ったずら」と、村の衆はうわさしとった。

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