(じゃ)の話
          

収録者  伊藤 善夫  信越放送飯田支局長
話 者  高根 宗一  収録日 昭和56年10月27日      
                              

まあ、本当だか嘘だかわからんが、わしが聞いた話では、(じゃ)の話がとても多え。
そのひとつあ、池口(いけぐち)という(とこ)の話しで、そこの池口川は、いまあ平らになっとるが、

むかしふせがれて池のようになっとったちゅう。
 
へえだが、そこにゃあ、
(じゃ)()んどった。
 あるひ、近くのおばあさんが、その川で(なべ)を洗っとった。


そんとき、おばあさんがちょっと手を滑らしちゃったら、鍋がガラガラガラガラと音を
立って、
川下(かわしも)へ流れだしちゃった。 へえたら、その音に(じゃ)がびっくらこいて大暴(おおあば)れし、

池口川の瀬が切れちまい、
()んどった(じゃ)は天竜川まで流されて行っちまったということだ。

 
池口という名前からして、むかしゃ、やっぱり池があったんずら。


もうひとつあ、やっぱり
(じゃ)の話だが、その池口川に犬神さまが(まつ)ったる。

どうして、ここに祀ってあるか、わけはこうだ。


 あるひ、
猟師(りょうし)が犬を連れて、山へ猟に出かけた。

いつも通る道い来たら、犬が猟師の方を向いて、急にかみ付かんばりに吠えて暴れだした。

いつもあ、おとなしい犬だに、このありさまにゃ猟師はたまげて、


「あれほどかわいがっとるに、なんで、ご主人に吠えるのか」と、いきなり
(なた)を抜いて切りつけた。

すると、切り落とされた犬の首あ、宙飛(ちゅうと)んでって、(じゃ)にガバッと食いついたちゅう。

命拾いした猟師は、その犬の霊をねんごろに(まつ)ったそうだ。

それが犬神さまだ。

 まっとほかの話もあるでよ。

 遠山川の上流に加加良(かがら)ちゅうとこがあるが、昔、そこにゃ(ふち)があった。

あるひのこと、二人の猟師がそこを通りかかると、

淵に橋みてえな
丸太のでかいやつが浮かんどる。

近くまで行ってみると、そこに蛇がおった。

 二人の猟師は、びっくらこいて、猟もせっこ物も言わず、家へ帰ってきたちゅう。

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