地 の 神 様

 「地の神様」という土地を守る神様が、むかーし、むかーし、二つの村にはさまれて、見張り台として、
おかれた部落があったんだって。

それで、その部落は、農作物には恵まれ、豊富に出来ておったんだけど、ある年全然と言っていい程に、
農作物が実らなかった時期があったんだって。
(それは、後の話につづく)この部落では、地の神様といって、今でも言われとるんだに。

 むかーし、むかーし、仕事が好きで、朝も昼も、夜だって、月の光で仕事をしておる、年は七十そこら
のおじいさんが住んでおったんだって。

それで、そのおじいさんには、年が二十五のノッポの息子がいたんだって。
おじいさんの家の周りは、たくさん農作物を作って暮らしておったんだに。

春になれば青麦、夏になればきゅうり、いちご、すいか、秋になれば柿、いも、かぼちゃ、冬になるとにん
じん、大根ねぎ、白菜、かぶ。
おじいさんは、こんな野菜などがかわいくてたまらんかった。
いつも、野菜達に声をかけてやっとった。
草を取ってやったり、こやしをかついで野菜のまわりにかけて、
「おーおー、おまえ達は、こんなに大きくなったか。よしよし、もっと大きくなれや。」

 まるで、自分の子供のようにかわいがっとった。
で、野菜達も、大きく、おいしーく育ってったかもしれんな。
 
 ところがある日、おじいさんは、体の具合が悪く、働くことが出来んかった。
なにしろ、おじいさんだって年だもんで……。
そいで、野菜達のめんどうは、息子がみてやることになったんだって。
 息子は、なれない手つきでくわを持ち
まるで、きたないもんを持つみたいに扱っておったんだって。
そいだもんでか、野菜をいつとっていいのか、こやしもやらず、くさもとらず、畑は荒れほうだいだった。
息子はなにしろ、ノッポだったので、大根をぬくにしても、やたらと乱ぼうにほおったり、けったり、ふんず
けたり、近所の人達からもあまり良い評判者ではない息子だったんだって。

おじいさんは、自分の体が悪くなったために、息子を犠牲にして、と思っとった。
少しわがままに育てたおじいさんも、わがままな息子も、世間の目からは、苦労が足りないと思われとったん
だって。

そんな息子も、月日がたつが、全然仕事をしない。
おじいさんはもちろん、そんなことは知らん。
ところが、困ったことに、あんなにすくすくと育っていた野菜達が、だんだんと取れなくなった。
きゅうりを食べたいと思っても取れない。
すいかを食べたくても食べれんかった。

 おじいさんは、以前のあのあまーいすいかが食べたくて、息子にこう言ったって。
「野菜はかわいがらなかったら、実らないんだよ。」
………………と。

「何だってそうだ、かわいがって大事に育てんとだめだ。」
おじいさんは、以前以上に体が弱くなってしまった。
息子は困り果てて、どうしたらよいか考えこんでしまった。
このままでは生きては行けんと思い、息子は、畑仕事を好きになろうと、畑を見回し、地の神様に言ってお願い
したんだって。

「野菜が出来るよう、どうぞお願いします。」
地の神様は、耳がさぶけそうな大声で、息子にこう言ったんだって。
「おまえは、仕事をなまける。このままでは、おまえも死んでしまうよ。土地を大事にたがやし、野菜をかわい
がり、太陽さんに感謝しなさい。そうすれば、野菜はいくらでも出来るよ。おまえは、幸せに結婚も出来るんだよ。
今日から、おじいさんを大事にして、今言ったことを守りなさい!!」

それから息子は、必死になって、神様のおつげを守ろうと頑張ったんだって。
なまけ者の息子には、どうしたら神様のおつげどおりにやれるか、迷ってしまったって。
守りたいにも出来ない。ただいらいらしてばかりだった。

 ある日、おじいさんは、今にも倒れそうな体で、畑へと歩いて行った。
「オレがいない間に、こんなにもなっていたのか‥‥‥…。」

おじいさんは悲しくなり、畑にすわりこんでしまったんだって。
それから、ハッと思いついたように地の神様に、お願いに行ったって。

「神様、どうか息子が、この地を守って、野菜をたくさん作って、あのおいしかった、なすを、きゅうりを、すいか
を、取れるようにお願いします。」

お願いをしたら、おじいさんの体は、スーツと楽になったんだって。
それから、家に帰って息子に
「おまえは、そんなに仕事がいやだったのか。だが……なあ、おまえは少しわがままに育ちすぎてしまった。もう少し正直になって、感謝して、野菜を我が子のようにかわいがってみてみ!!」
おじいさんは、涙を流して息子にたのんだ。
息子は、その涙を見て、

「オレは悪いことをしているんだなぁ。」
と初めて気がついた。

それから、おじいさんの言うことを、素直に聞き、言われたとおりに仕事をやったって。
そうしたら、神様のおつげが次々とわかってきた。
それから、毎日毎日、朝起きると、地の神様のところにいって、

「今日も、いっしょうけんめい仕事をします。」
と手を合わせてるんだって。

     それから、一週間後
息子は、みちがえる程にたくましく、仕事に対する熱の入れ方が違って来たって。
野菜の変化はなかったけど、息子は、必死になっていたって。

     ある朝の夢の中で

ポトポト、サラサラ、トントン。
「何だろう。」 
そう思って、息子は外に出た。
そのとたん、息子はびっくりして、こしをぬかしてしまったって。
それもそのはず、だって、空から休みなく野菜が降って来たんだって。
かぼちゃ、にんじん、大根、すいかやいちごまで、ありとあらゆる四季折々の物が……。
息子はおじいさんを呼んだ。
おじいさんは
「これは、おまえの苦労と心が描いてるんだよ。これからも、そう思いながら、誰に対しても、何に対しても、生きて行きなさい。」
 息子は、涙を流しながら、おじいさんに感謝した。
いっしょうけんめい、いろいろと教えてくれてありがとう。
目がさめたら、涙でいっぱいの顔だったって。

     それから一年後

 家の庭にも、角っこにも、どの畑にも、どの畑にも、すいかも、大根もトマトもいちごも、ありとあらゆる野菜、くだものが……。
 お
じいさんは、体の調子もよくなり、仕事も出来るようになり、二人で村一番の百姓になったんだって。
その息子に、隣り部落から、かわいい、かわいいお嫁さんが来て、三人でとっても、とっても仲よく暮らすことが出来たって。
 毎日毎日、三人で、地の神様に手を合わせては、畑の仕事にとりかかった。
息子も嫁さんも、百姓が好きで好きでたまらんかったんだって。

 このように、地の神様とは、土地を守り、農作物のほうさくきがんの神様として、今でもこんにゃく畑のまん中にあるんだって。

    ノッポとは仕事ぎらいのこと  

 天王様の赤ん坊