どんまいとおとし

 昔々、この遠山にどんまいとおとしの夫婦がいたんな。
どんまいたちの生活は貧しかったけど、その二人は仲よくくらしとったんな。
 ある日、いつものように二人で畑仕事をしとると、急にどんまいがたおれちまったんな。
おとしが家につれて帰ってお医者様に見せるとお医者様は
「ただの疲労だで二、三日ねとりゃ大丈夫。」といったんな。

 そんでもどんまいは「働らかにゃ。」とお医者様のいうことを聞かっこ働いたんな。
何度もたおれちゃぁ働き、働いちゃぁたおれとるうちにとうとう立てんくなっちまったんな。

お医者様にたのんでも、もう手がつけられんと断わられちまったんな。
いろんなお医者様にたのんだんだけどみんな手おくれだといったんな。
お医者様に見てもらえんもんで、どんまいはどんどん悪くなってったんな。
毎日毎日うなされて、熱も下らず苦しそうな顔をしてたんな。

 だもんでおとしはいっそのことどんまいを殺して楽にしてやり、その後を自分も追おうと思ったんな。
そいで、すぐに台所にいったんな。
ほんで、細長くて鋭い包丁を持ってきたんな。
 そいでいっきにどんまいのむねをさそうと思ったんだけど、いままでいっしょに働いとったどんまいを
自分の手で殺すことはできんかったんな。

おとしはそれほどまでにどんまいを思っとたんな。
それからおとしは、どんまいの分もいっしょうけんめい働いたんな。
一人で畑にいっちゃぁ働いたんな。
仕事が終わると、毎日近くの神社でお百度をふんだんな。
でも、そんな努力はみのちらっこどんまいの病気はよけい悪くなってったんな。

 ある日、どんまいはいったんな。
「なあおとし、わしゃもうおめえに迷惑をかけたくねえ。でもな、一つだけおめえに頼みがある。
わしゃ死ぬときだけは楽に死にてえ。」と。

 おとしは、どんまいの口からはその言葉だけは聞きたくなかったんな。
でも、最後の頼みならと村の長老の所にいって安楽死する方法を聞いたんな。

 そこで長老は、
「安楽死する方法はいろいろとあるけど、昔っからつたわっとる豆念物ちゅうのがあるんな。
豆念物ちゅうのは音頭取りが安楽死する文句をいって、鐘を鳴らしながら豆を焼くんな。
そうすると、豆のにおいがぷ〜んとにおってきて、いい気持ちになりながら死んでいけるんな。」
と教えてくだすったんな。

 家に帰っておとしと村のしゅうでさっそく豆念物の用意をしたんな。
そんで、さっそくおとしの音頭で始まったんな。
「チーン、チーン。」
と鐘の音がなって、豆念物の文句をいったんな。
おとしの目は、もう涙でいっぱいだったんな。

どんまいと別れるのはすごくいやだったんな。
 豆念物をはじめてしばらくすると、豆のにおいがぷ〜んとにおってきたんな。
そしたら、今まで苦しそうにうなっていたどんまいが静かになってきたんや。
ほんで、みんなが気づかんうちに息をひきとったんな。

 どんまいが死んじまってからおとしの姿みたやつはいねえそうな。
きっとどんまいの後をおって死んでいったんじゃろな。

  七つの地蔵様