七つの地蔵様

 いつごろの話だか知らんけど、遠山川の奥の方に小さい一軒の家があったんだに。
この家には、そりゃあやさしいおじいさんとおばあさんが住んどったんな。
おじいさんとおばあさんは、それまでにも、地蔵様にかさをかぶしてやったり、つるを助けたり、
枯れ木に花を吹かせたり、親切でやさしかったんな。
 
 この日も、おじいさんは山へたき木を拾いに行ってなあ。
山はこの間までの秋の色を消して、冷たい風が吹いとったんな。
向こうのひじり岳やうさぎ岳には雪がかぶさっておったってゆうで、よっぽど寒かったんだな。
 
 おばあさんは、川へ洗たくに行かっと思ったんだけど、寒くて寒くて足、腰が冷えるもんで洗
たくはやめて家ではたを織っとったんな。

 カタンカタン、コロコロ。カタンカタン、コロコロ。
一つのくるいもなしに、冷えきった山ん中で響いておったってな。

 どれくらい時間がたったんだか。おもてには雪がまい始めとったのよ。
おばあさんはその雪を見て、
「おじいさんも、早いとこ終わらしてきりあげてくりゃいいに。」
と心配しとったが、心配したところでどうにもならんことだもんで、それよりか、帰ってきたらす
ぐ休めるように、いろりに火をたいて、お湯をわかしとったんな。
と、ガッサガッサ、ガッサガッサ、何か人の足音がするのよ。

「ああ、ちょうどいい時に帰ってきた。おかえり、寒かっつら。」

おばあさんは、てっきりおじいさんだと思っておもてに出たんな。
そうしたら、おじいさんじゃなくて七人のおぼうさんだったのよ。

「私たちは旅をしているものですが、この雪ではもう先に進めません。少しの問でいいので休ませて下さい。」
そりゃあ 疲れた様子の七人だったんな。
おばあさんは、

「まず、えらかったらねえ。楽になるまで休んでいきな。」
って家ん中に入れてやったのよ。
その七人の衆は、どうやって来たんだか、着るものはやぶれとるし、おなかもすいとるみたいだもんで、
ご飯をやったり着物をぬってやったのよ。
こんなこたあ、なかなかできんことだに。七人のおぼうさんは喜んで喜んで、

「休ませていただいたうえに、ご飯をごちそうになり、着物までぬっていただき、本当にありがとうございました。
何とお礼を申せば良いのか……。そうだ、こんなに親切にしていただいたので、お礼に七つの地蔵をたてて行きます。
その地蔵は、困った時にお祈りをすればきっと助けてくれます。では、さようなら。」

 七人の衆は、どこへ行くんだか雪ん中を歩いて行っちゃったのよ。
おばあさんは、このことが夢みたいだもんで不思議で不思議で、口をポカッとあけたまんまそこに立っとったてな。

 夕方になったら大降りの雪もやんで、西の方には真赤い夕焼けが出とったんな。
おばあさんはやっと正気にもどったけど、おじいさんがまだ帰って来んことに気づいてよ、

「あれ、まず暗くなってきたっちゅうにどこまで行ったんずら。」
そう思いながらちょっと出かけたんな。   
「アア、ウー、ウーン。」
今にも死にそうな声を出して、だれかつくなっとるもんで、おばあさんはまさか、と思って声がする方に行ってみた
のよ。そうしたら、おばあさんのまさかが当たって、そこにはおじいさんが背中をまるめて、おでこには汗を流
してうなっとるんな。
おばあさんはそりゃあビックリこいて、

「おじいさん、どうしたよ。あんじゃあねえか。」
そう言いながら、ヨイショ、と起こしてやったのよ。
「アー。……。」
おじいさんもうなっとるはずよ。
足ざぶしあたりから血を流して、おでこには汗を光らしておるんな。
おばあさんは困っちまって半分泣いとったけど、そんな事しとってもしょうないで、つておじいさんのかたを持ってや
って、やっとこさ家に着いたんな。

「どうしたらいいんずら、こんなに血を出しとるに。」
とおばあさんは困っとったんな。
外はもう真暗で星がチカチカしておってなあ。そうしたら、急にさっきのおぼうさん達の話を思い出してなあ。

「そうだ。お地蔵様にたのみゃあ、治るかもしれん。」
と思って家ののきに行ったんな。
そうして、地蔵様の前にひざぶしを
ついて、
「お地蔵様、うちのおじいさんがけがをしちまって。さっきから血が止まらんのです。どうか助けて下さい。お願いで
す。どうか助けて下さーい。」

と泣きふせちまったら、朝までそうしとったんな。

 きのう降った雪も真白になって光とったんな。
おばあさんは、じいっとその雪を見ておったんな。
そいで「あっ」っと急におじいさんのことを思い出して家ん中にとび込んだのよ。
おじいさんはスースーね息をたててねとったんな。
おばあさんはこれはお地蔵様のおかげだ、と思って喜んだってよ。
おじいさんも足が治ったもんでまたいつものとおりに山へ木を拾いに行けるようになったってな。

                              おわり

 のっぺらぼうと村人