蛇 神 様

 これは、夜川瀬に伝わる蛇神様の話です。 
静かで平和なこの村にも、一つだけ大きな悩みがありました。
 
十五日の夜になると、きまって大蛇が村を荒しに来るのです。
 
大蛇の荒しように、ついにがまんできんくなった村の衆は、大蛇を
退治することにしました。
翌日、さっそく村の衆は、大老の所に集まって、「大蛇退治」の話
を始めたが、みんな考え
こんだままでした。

それから、どのくらいたっただろうか?あいかわらず村の衆は考え
こんだままでした。
そのうち
言米(ごんべい)が、「誰かが、大蛇を退治しに行くしかねえ。」と言いました。
「それしかねえみてえだな。」とみんななっとくしたが、
大老
が「誰がいくんだ。」と言うと、また考えこんでしまったのです。
すると今度は馬吉が、「清兵に行かしたらどんなもんだらぁ、あい
つはよそものだで大蛇に
食われちまっても、だれもかなしまんだ。」
と言いました。
「それはいい考えだ。」と言うものもあったが、「いくら
よそもんでも、かわいそうだ。」
と言うものもあって、ついに、言いあ
らそいになったのです。
しかし、もともと、気のやさしい、この村の衆は、「いくらなんで
も清兵がかわいそうだ。」
と思い直したそうです。

 それから、話し合った末、村のことだから村の衆全員で退治に、行くことになりました。 
そして、あくる日、くわやかまを手にした村の衆は、大蛇のすむと
いう、山奥に、入っていったのです。
 大蛇のほら穴というところについたのは、もう日がとっくに、おちたころだったので、村の衆は、
大蛇に見つからんように、あたりに、
かくれていました。
どのくらいたったか?

大蛇は、ほかの村を、おそって、つかれて帰ってきて、穴に入ると
すぐ寝てしまいました。
 村の人たちは、この時とばかり、大蛇に、おそいかかっていきました。                  グサ、ザク、いくら大蛇でもこうくすがれたら、たまりません。
ばれまくって、そのまま谷へドーン。
こうして村には、平和がもどったが、それから、一月くらいたった
ある日、原因のわからん熱病が
この村をおそったそうです。

子供や年寄りは、熱病にかかり、何人も死んでいきました。

そのうち、これは、大蛇のたたりにちがいねえ、という、うわさが
ながれ、村の衆は相談して、
大蛇を『ヘビ神様』として、祭り、おが
んだのです。
するとどうでしょう。

熱病に、おかされていた人が、うそのように、元気になったんだと
いうことです。

              (おわり)

 もどらなかったおわん-おわん淵より-