岩 の 話

 よくは知らんがな、むかしむかしの大昔のことでな。
そこには、大きい岩、小さい岩、丸い岩、四角い岩とまあ、いろんな岩がな、おったんな。

そん中でも特に大きかったのがな、大岩のごんちゅってな、なんでも小山ぐらいはあったんだに。
このごんがな、自分はこの世で一番大きく一番強いと思っとって、ようあばれまわるんで、ほか
の岩たちは毎日びくびく、困っとった。

「大変じゃ大変じゃ。」

この辺では、一番の古ダヌキと言われとる岩んとこへ、息せききって、おいという若岩がすっと
んで来た。そこいらにいた岩たちが、みな何事かと集まった。

「どうしたんな、そんなにあわてて。」
古グヌキ岩がきくとな、おいはこういった。
「ごんじゃ、ごんがまたあばれとるに。北の森がめちゃめちゃになっとるに。」

このおいの言葉に答えるもんは一人もおらんかった。ただみんなな、だまってな、ホーッてため
いきついてあきらめたようにもどってしまったんな。

メキメキ、ボキッザザザーッ

「そーぉ一っらー。」

ドッシーン。
「ハアーッハッハー。愉快愉快。それー。」
メキッメキメキ、
「うんらぁー。」
ボキッザッシャーン。「ハッハッハッ、軽い軽い。おいがみんなを連れに行ったようじゃが、
フン、誰一人として来るものか。このおれ様より強いものなどおらん、わしが一番じゃ、ハァーハッハッ。」

 北の森では、ごんが大あばれにあばれとった。やりたいほうだいやっとった。
誰もとめにこんかった。ごんはあばれるだけあばれて帰っていった。
森は死に絶えたようにめちゃくちゃになっちゃったんな。

「こらあひで−、またごんどんがやったんだな。」
ごんがあばれまわった後の北の森へ、たちっちゅう、
この辺ではごんの次に大きいといわれとる大岩がやって来た。
たちは、ごんとはちがって気がやさしいんな。「う−ん。ごんどんにも困ったもんだ。
このままほっといたら、ごんどんひどくなって、この辺はあれほうだいになってしまう。うーん……。」

たちは、「う−ん」とうなりこんで、めちゃめちゃになった北の森をじっと見つめてな、一人言をいったんな。
そして、それから一言も言わずに考えこみだしたんな。

 たちが考えこみ出してから三時間と少しがたったんだに。
たちはまだ考えこんどった。
北の森をじっと見つめ、時には目をつぶりうなだれた。
でもすぐに体をゆすり、森を見た。こんなことを何回も繰り返していたがな、今また目を開いたたちはな、

「よし、あした……。」そういって寝ぐらへもどって行ったんな。
 次の日の朝、たちは出かけたんな。それがな、ごんのところへ行ったんじゃった。
ごんはまだ寝とった。そこでたちはな、起こそうとして声かけた。

「ごんどん、ごんどん、すまんがちょっと起きてくれや。」

「ぐおーぐぐぐぐぐ……。ぐがあーぐー……。」
大いびきをかいとるごんは起きなんだもんで、もちょい大声で呼んでみた。
「ごんどん、ごんどーん、起きてくれやー!」
それでもごんはなかなか起きてくれん。
それで、たちが、「ご・ん・ど・ん・起・き・て・く・れ・やー!!。
とまあ、地もはりさけんばかりの大声をはり上げたならな、
「なんだ、うるせーな。いってえ何事だ。」
と、のっそりのっそり、やっと目を覚ましたんな。
「起こしてすまねえな、たちだよ、ちょっと話があるんだ。」
たちがそういうと、
「話だと、そんなもん後にしてくれ。おりゃあ寝てえんだ。」

と、ごんはさもめんどくさそうに答えた。
「うんにゃ、すぐ終わるから聞いてほしいんだ。おまえさんは、寝出すと起きるのがいつのこったか
わからんからな。」

「じゃ早いとこすませな、おりゃあ寝てえんだ。」
ごんは、山によりかかってふんぞりかえった。

たちは話を始めた。
きのう、たちが「よし、あした。」と決心したことは、このことだったんな。
「ごんどんは、すばらしくでっけえし、すっごい力もちだ。でも、おまえさんはその力を悪いことに
使うもんだから、みんな困っとる。どうかあばれて、この辺をあらすのはやめてもらいてえんだ。」

たちの話をきいていたごんは、ちょっとびっくらこいたようだったが、荒々しくこう答えたんな。
「たち、おめえこのおれに説教すんのか。てえやんでえー、おれの力をおれがどう使おうとおれの勝手だ。
おめえなんかにゃ指し図されたかねえ。」

「だがごんどん、いくら勝手だといってもいいことと悪いことはやっばりあるでな……。なあ、たのむだ。」
「フン、何といおうとむだだ、帰れ帰れおりゃあ寝てえんだ。」
ごんはいっこうに相手にせん。
「うんにゃ帰らねえ、うんといってくれるまでは帰らん。」
たちもねばった。
「絶対いわん。あきらめて帰れ。」
むっとしてごんはいった。
「帰らん。」
たちがつっぱねた。さあ、気の短い荒いごんが、これですむはずなかった。
とうとういかり立ってどなったんな。
こんにゃろうがー、いいかげんにせーよ、ただじゃおかねえぞう。」
それでもたちは、
「帰らん。」
きっぱりとそう言いきった。
「絶対帰らん。うんと言ってくれるまでは絶対に帰らん。」
これを聞いたごんはな、フンと鼻で笑っていったんな。
「よーし、言ったなあ。そんなら勝負じゃ。一度でも、このおれを負かすことができたんならたち、
おまえのいうことを聞いてやる。」
 さすがにたちも考えてしまったな。なにしろ相手は五回り程も自分より大きくって、力も何倍もあったん
だから無理なかった。

だが、とうとうたちは決心した。
「わかった。」
そういって顔を上げ、ぐっとごんを見た。その目には、どことなくさびしさが見えたな。

 さて、ところかわってこちらは何も知らねえ岩たち。
みな世間ばなしやらなんやらに花を咲かせておったその時、とつぜん、グラッダラダラダラダラッ…………、
と地がゆれた。

みなは何事かと、さわいでおった。
そこへ、おいが走って来た。だいぶあわてた様子。
「た、大変じゃー、大変じゃー。」
またごんか困ったのう、みんなはそう思ったんな、だがおいはこう言ったんな。
「た、たちが、ハアハア、…ご、ごんと…ハア、勝負しとるう。」
みなびっくりした。そして、お互いの顔を見合ったきり、だまってしまったんな。
たちが何故そんなことをしとるのか、ま、だいたいみんなは、わかっていたんだな。

 しばらくは、だんまりが続いた。
その内、どこからともなくぼそっと聞こえたんな。
「行ってみよかー。」
それを起に、みなそろってさけんだ。
「そうじゃ、行ってみベー。」

おいを先頭に、みな、ごんとたちんとこへ向かったんな。
「ほ,ら、あそこな。」

おいの指した方を見ると、やっとるやっとる、二つの大岩が、体をぶつけ合い押し合っているんだった。
大きい方がごんだ。そらあ、ごんに勝てるはずねえ、たちは、投げとばされてばっかいる。
そんでも、ヨロヨロッと立ち上がり、また向かっていっとった。

「そぉっらあッ―。」

起き上がりかけたたちを、ごんがまた投げとばした。
「…うっ……。」
「どうだ、まいっただろがーえ――ッ。」
勝ち誇ってごんが言った。
「・‥ま、まだまだ…。」
たちは、またも立ち上がった。
「しぶといなーッ!!。」

あんまりたちがねばるんで、ごんはもうもどかしくって、疲かれてな、
「うんりゃーッ、これでおしまいじゃ――ッ。」
と、残りの力を全部ふりしぼってたちを投げとばしたんな。
傷だらけのたちは、高く高く高くとんだ。
そして、ズド――ン!、ものすげ
え勢いで落ちたんな。
見ていた岩たちは息を飲んだ。もうおしまいやと思った。
あたりが一瞬静まりかえった。

「…フン、おらにさからうからじゃ。」
ごんは、はきすてるように言った。そして、立ち去ろうとしたんな。
と、その時、後ろからかすかな声が呼びとめた。
「ま…ま…まあて、まだじゃ…ま…まだじゃ。」
たちだった。
 たちは、もう傷だらけでな、あちこちかけて見ていられんぐらいだった。
それなのに、またヨタヨタと、くずれそうになりながらもな、動き出したんな。
もう見ていた岩たちは、声がのどにつまってでん、体もかなしばりのようになって動かん。

ごんまでも、もうびっくらこいて、口をぽかんと開いたまんま、たちの動くのをボーッとながめていたんな。
 たちは、ヨタヨタ、ヨタヨタ、ゴロッ…ヨタッヨタ、ゴロン、ゴロッヨタッ、ゴロッ、ヨタッゴロン、ゴロッ
ゴロッゴロンゴロッ、ゴロンゴロンゴロンゴロン……だんだんスピーどをましてきた。

ちょうどそこは坂になってたもんでな、転がっとると勢いがついた。
ゴロンゴロンゴロンゴロン、どんどん転がった。
ごんを目かけてゴロンゴロン、転がるたびに勢いましてごんに近づいていった。

 あとぶつかるまで五百メートルというとこまでたちが近づいた時な、
今まで、ぽかんと口を開けて見ていたごんはな、ハッと正気にもどった。
が、もうおそい。
たちは、そうとうな勢いでな、ごんにもうれつにぶつかった。

「うっうわ――ッ!!。
 ドッシ――ン
!!
あたりが、大地震のようにゆれた。地がさけんばかりだった。
 「たち――っ。」
見ていた岩たちは、いっせいに叫んだ。今の衝撃で、のどにつまっていた声がとび出したんな。
たちは、ぶつかった地点に止まっていた。
みなは、たちにかけ寄ろうとして、すぐに、今度は逆に転がっていくごんに目をとられた。
体当たりをくらったごんは、しかもふいだったから、ものすごい勢いで転がり落ちていったんな。
その方向には、あの北の森があった。

大木が何本も倒れておった。その中の一本の松の根に、ごんはぶつかったんな。

「ご――んッ。」
見ていた岩たちは叫んだ。
ごんはしばらくして起き上がったがな、その頭にはな、松が根をはっておってな、それがまた、
大木の中の大木じゃったから、ごんは身動きとれんくなった。

 たち、たちはな。
みんながかけ寄っていてな、いくら呼んでも答えんかった。

たちの体はくだける寸前までいっておったということな。
これを見た岩たちは、自分たちの勇気のなさをはずかしく思って、動かなくなったたちといっしょに、
みな動くのをやめたということな。

 ごんの頭の上の松の木は、今もなお天に向かってのびとるということじゃ。
あんだけ大きく、力もあったごんだでな、栄養がたあーんとあるということな。               

       (END

 一夜の出来事