意地悪宝作とドジベエ呉作

 今は昔、とある村に戦があったんだと。
戦が起きれば食い物はなくなり、人はケガをし、また死ぬ。
この村も例外ではなかった。
 
 その日、村には食べる物がなく、宝作と呉作で猪を取りに行った。

二人は穴をほり、わなができたら猪が出るまで木の上でまつつもりだった。
ひょんなことから、村一番のドジベエ呉作が、足をすべらせて地に落ちたが、それだけではすまされん
かったそうな。
 
 宝作が助けにおりた所、それをかげで見ていた猪、二人めがけてぶつかってきた。
これはたいへんと二人は走り出し、走りに走ったそうだ。
猪からは運よく逃げれたが、武将の本陣、そのサムライは
「こやつ、町人のぶんざいでぬけぬけと走り込むとはこしゃくな、手打ちにしてくれる。そこへなおれ。」 
「おさむらいさま、おらたちがわるかった、見のがしてくれろ。」
「いいや、ならぬ、ならぬ。」死ぬ寸前だったそうだ。
そこへ、さっきの猪、足音をたてて走りこんだ。
 本陣の中はメチャクチャ、宝作と呉作、ここぞとばかりに、二人そろって

「ぬき足さし足忍び足、それ逃げろ。」
二人は走って走って走りまくり、ちょうど休もうとした瞬間、ビュースットンドデン、さっきの穴に呉作が
落ち、宝作が落ちた。
 
呉作は先に穴を出た。
 宝作は立とうとしたが足をくじいたらしく、いたくて立てなかった。
そのいたみをまぎらわすために

「おぬし、どうしてくれる、この足くじいたんもおまえのせいだぞ。」
そのことを真にうけた呉作は、みんなおれのせいだ、おれがわるいんだ。
これからはあいつの面倒を見たる、と心にちかった。

 呉作は宝作をおぶって川のある所に出た。
宝作は足をひやし、呉作は魚を取り、焼いて二人で食った。
二人は川を下った。
呉作の背中で宝作は

「おまえのおかげで足がいたくなったんだぞ、もっと大事にしろ。」
と、いばっていたそうな。

 川を下っていくと、ひらけた所に出た。
そこの中腹に住むことにした。
 
呉作は小屋も作り畑もつくり、宝作のために山から食べ物を取ってきては食べさせていたが、宝作は呉作の
苦労もしらないで 

「また同じ物か、たまには山の物はやめて川の物にしてくれ。おまえってやつは頭もヌケてりゃ料理もまず
いとくる、まったくひでえやつだ。」

 宝作の足がなおると、ぐちも一だんとひどくなった。
ある春の日の昼食、宝作はまた今日も今日とて、文句をたれていた。
「もう山の物はあきた。意地でも食わん。山の物は口にあわんから他の物を出せ。」
「川の物だったら文句も言わん、もっとおれ様の足が普通ならば川の物を食うだろう。魚のてり焼きのうまい
のなんのって、魚が恋しい。」
 
 呉作も宝作のぐちにとうとう頭にきてしまい、二人はケンカをおっぱじめた。

「そんなに川の物が食いたけりゃ山をおりて川に行け。そして二度とこの山にくるな、いいか、わかっとんの
か、スカタン!!」

「てやんでい、きさまに言われんでもこっちから山をおりてやるわ。二度と来るもんかボケナス!!」
呉作は山へ、宝作は川へ。

 宝作は毎日毎日、その日の分だけ魚を釣り、焼いて食べては寝ていた。 
呉作は毎日毎日、畑で作物のせわをし、収穫した。
こんなことで二人は春夏とすごした。

 秋になると、呉作の畑はいろいろな物ができていそがしかった。
収穫の時期でもあったからだ。
 
 宝作の方は日に日に魚がつれなくなっていた。
宝作の方は魚が取れなくなり、日に日に腹の空腹が身にこたえてきた。
 
今日も朝から釣り糸をたれていた、そしたらどうだろう、わけもなく、大きな魚が出てきた。

その魚は
「川はもうだめじゃ、あきらめろそして呉作に頭を下げて食いもんをわけてもらえ。そうしんとおまえ餓死す
るぞ、悪いことは言わん、おれの言うとおりにしろ。」
言い残すと水の底深くに消えて行った。
宝作は大魚の消えたあたりに向かった。

「おれには男の意地ってもんがあらあな、そうかんたんに頭を下げれるかってんだ、なにが川はだめだ、まだ
いけるじゃないか、おまえの大きなおせわだ。」
とわめきちらした。
そんなことを言っても腹はウソつかない、いつも「グーグー」と鳴っていた。
 
 その頃呉作は、野山をかけめぐり、わなをしかけては動物をとってはたくわえて、本格的な冬にそなえた。

空からは雪が落ちてきた。
宝作は空腹と寒さにたえていた。
 そんな時、あの大魚の言ったことが脳裏をかすめ、耳にその声がこびりつきはなれなかった。
 
ついに宝作は決心した、呉作に頑を下げるのを。
 
宝作は重い足をひきずって、一歩一歩、歩いて呉作の家の戸の所についた。
戸の所で宝作は呉作に
「呉作どん、ちょっくら中にはいっていいだかな、呉作よう。」
 
呉作はすぐに、この前のことを忘れて
「いいよ、早く入れよ。」
 
いきなり宝作は、

「すまん、この前のケンカはおれが悪かった。このとおりあやまるから。」

「もう頭を上げてくれ、この前はおれも悪かったしな。」
「なに、こんなおれでもゆるしてくれるのか、すまん、ついでで悪いんだが食料をわけてくれ、もう魚がとれ
ないんだ。」

「ああいいとも、おやすいごようだ。」

と言って呉作は、冬の間にこまらないように、動物をとるわなの作り方をおしえた。
宝作は、沢山の食べ物をもらい帰った。

 それからというもの、二人は仲よしになり、山と川の物とでケンカをしなくなったそうだな。
おしまい。


 大鬼相撲