大 鬼 相 撲

 昔々、遠山の大島という所に、とってもこわーい鬼がおった。
夜になると、村を手あたりしだいにこわしたそうだ。

 ある日、一里とはなれておらん里から、三日もかけてある男が帰ってきたんだ。
その男の名は、左太郎といって、この村で一番ののんびり屋なんだよ。

 その夜な、左太郎は、愛犬ポチと仲良く夕飯を食べておった。
そしたらとつぜん、でっかい地しんがしたんだ。
それは、山の奥から鬼がおりてきたんだ。

 ドゴォーンドゴォーン。
鬼はものすごい地鳴りを立てて村に近づいてきた。
村人は、みんな家をすててにげたんだ。
左太郎とポチも、もちろんにげた。
が、左太郎は、のろまのために走っても、走っても、全然前へ進まんかった。
その上、石に足をつっかえてころんでしまった。

鬼は、山から大岩のような、ごっつい顔をスーツと出した。
「わー!鬼だ、はやくにげんけりゃ食われてしまう。」
「いててて……なんてこった……足をくじいてしまったぞ。」
「おお、今日は一人、人間がおるぞ、人を食うのは久しぶりじゃ。」
鬼はそういうと、左太郎に近づき、大きな手をのばした。
「ワン!!」
ポチは、鬼の手にかみつき、必死に体をふった。

「うっ、なんだこいつは、くそォー。」
バシッ。ギャワォーン。
ポチは、鬼にほうり投げられ岩にあたった。

 鬼は、あわてて山に帰った。
クゥ〜ン……。
ポチは、静かに息をひきとった。

 左太郎はかなしんだ。
そして、墓をたてた。
墓といっても、木をたてるだけのそまつなもんなんだ。
そして、にくい鬼を倒すことを決意した。
が、いくら考えてもなかなかよい方法などうかばんかった。

「小便でもひるか。」
左太郎は外に出た。
そしたら、なんと昨日ポチの墓木にした木が、天までとどく程、でっかくなっとった。

 左太郎はおどろいた、おどろいた。
「そ〜だ、この木を使って鬼をやっつけたろう。」

 そうしてその日は、村人そうでで、この大木を鬼のかっこうにしたんだ。
それから、木全体によくひっつくとりもちをつけたんだ。
そのできぐあいのよいこと、知らん人がそれをみたら、本物とまちがえて、こしをぬかしたんだよ。

 その夜になあ、鬼が山からおりてきたんだ。
左太郎は、木の近くの石にかくれ、村人達は近くの林にかくれた。

 鬼は、にせ鬼を見つけ、
「やい、どこの鬼だか知らんが、おれのなわばりに入ってきやがって!! やい!! おれと相撲しろ!! 
そしておれに勝ったらここをやろう。
 ハハハ………。」
鬼は、自信ありげにそういうと、左太郎は石のかげから低い声を出して、
「ほー、このおれに勝てると思うのか? なら少しでもおれを動かしてみろ。」
と鬼を馬鹿にしたんだ。

 すると鬼はえらく怒って、にせ鬼にものすごい勢いで突進したんだ。
ウオオーガシッ………あたりは急に静かになり、ものすごい砂煙りがまいあがった。
そしてしばらくすると砂煙りはうすくなり、鬼の姿が見えてきた。

「うう……なんてやつだ、おれが全力で体あたりしたというのに少しも動かねえ…‥…。」
鬼は顔からひや汗をながして、えらくおどろいたようすじゃ。
けど、しばらくするとでっけえ声を立てて持ちあげようとした。

それでも動くわけはねえ。左太郎が石のかげから出てきて
「やい、その鬼はニセ物だ。ざまあみろ。」
と鬼にむかっていったんだ。
そうしたら鬼は、急に気ちがいみたいにあばれたんだ。
けんど、木にゃあいっぱいのとりもちをぬったるんだで、あばれりゃあばれるほど手や足、顔に毛などに
ひっつき、とうとう身動きができんくなってしまった。
このときとばかり村人は、林から出てきていっせいに火矢を打ったんだ。
鬼は木といっしょに焼き殺されてしまった。

 左太郎はな、ポチにりっぱな墓を作ってやった。

 おせんぶち伝説