か ん の ん 様

 むかし、むかし遠山に、貧乏で小さな部落があった。
けれども、その意地悪な庄屋は別で、ぜいたくな生活をしていた。
この庄屋の意地の悪さは、とてもひどく、いくら村人が困っていても、全然知らんぷり。
しかし、この庄屋でも頭をさげる事があった。
それは、かんのんだった。

 そんな庄屋が、ある日、月に一度のかんのんまいりに行った日、いつものように庄屋は、かんのんに
「一生楽な生活が出来るよう、死んだって、ごくらくじょうどへ行けますように。」
と頭をさげ、なんべんもいのった。

そこへ、子供達がやってきて 
「はっきょい、のこった。」

と、なんと、かんのん堂ののぼりばたを、ふんどしにしてすもうをとっているのであった。
これをみた庄屋はだまっているはずがない。
「こっらあ、おめえら何ちゅう事やっとる。さっさと、やめろ。」
と、おおけんまく。
子供達は、ただびっくりして泣きだしてしまった。

「何泣いとるだ、はやく、家へ帰れ。」 

 さて庄屋は、屋敷へ帰ると、さっそく
「おい、わしは腹がへった。ごちそうをもってくるだ。」
やといの者は、
「はい。」 
と一声するとそこへ村人たちがやってきた。

「庄屋様、わしら食う物もねえ、そんだけど子供にゃ食わしてやりたいだに、どうか少しでもええから、食い物
くだせい。」

「いや、だめだな、おれには関係ねえだ。」
村人はなんども庄屋にたのんだが、庄屋の方は、かかわりもせず村人をおいかえした。

 庄屋は、さっそくごちそうを食べようとすると、そこへ、一人のみすぼらしい男がやってきた。
「なんだおめえは、こじきか、勝手に入ってくるじゃない。何もやらんわ。」
と庄屋は、いやらしそうに鼻をつまんでいうと、
「いや、庄屋、おめえはなぜ、村人たちにゃ食い物やらん。それ、そこに、たんとあるじゃねえか。それに、
子供たちをなぜそんなにいじめる。」

とその男がいうと、
「うるせい、おめえらこじきが、何をほざくだ。」
するとその男は何も言わず、頭をガックリとさげ、
「なら仕方ねえ。」
と、どこかへ行くと、すると、どうした事だ。
今まで元気だった庄屋が、頭がガンガンすると寝こんでしまった。

 庄屋はとうとう、一日中ねていなくてはならなくなる程悪くなってしまった。
庄屋は、都から医者を呼んだが、

「庄屋さん、このやまいは、私にはわかりません。一応薬だけはおいていきます。それでは、薬代としんさつ料を
おねがいします。」

と、あつかましく医者がいうと、
「なにをいうだ、なおしてもらえねえに、金はらえるか、さっさとその薬とやらおいて出て行け。」
と、庄屋も庄屋、すぐさまその医者をおい出してしまった。

 庄屋のやまいは、日に日に悪くなってきた。
庄屋は、いつものように都から医者を呼び、そしておいかえすという日が続いた。
だから、

「これはきっと、子供たちのせいだ、あいつら、またかんのん堂で遊んでおるな、よし、おいだれかおらぬか。」
庄屋は、やまいは子供たちのせいだといい、とうとう子供たちが、かんのん堂に入れないようにさくを作ってしま
った。

 それから、次の日また村人達がやってきた。
「庄屋様、これだけはおねげいだ、子供たちを自由に遊ばせてくれ。」
「いやだめだ、わしがここにこうしてねているのも、子供達のせいだ。」
とまた、村人達を、おい返してしまった。
 するとまた、この前のみすぼらしい男が庄屋の所へやってきた。

「おい庄屋、子供たちとおれは遊びたいんだ。すもうをとったりして なのにおめえは、さくを作ってしまった。」
「こじきのくせして何をいうだ。子供たちとすもうなんかとってるからだ。あれ、ちょっとまて、大人はすもうなん
ぞ、とっとらんかったぞ、おい男、どういう事だ。」

「いや、おれは遊んでる。おまえこそ何を見とる。子供たちとおれはいつも遊んでいたのにな。」
「何を変な事いっとる。パーにでもなったのか。」
と庄屋が、不思議そうに聞いた。
男は、

「さあ〜。」
といって、す〜っと消えてしまった。
庄屋はそれを見て、ハッと気がついた。

「そうだ、あの男は、かんのん様だ。子供がいつも遊んでいたのは、かんのん堂の前だから、きっとそうだ。」
といい、

「これはいかん、かんのん様がおいかりになったのだ。すぐかんのん堂のさくをはずすんだ。」
庄屋は、さくをはずした。
かんのん堂に子供たちを呼び遊ばせた。
すると、庄屋のやまいは、すーっとなおってしまった。

 それからというもの、庄屋は、村人達と協力し合ってくらした。

 きつね火