かわらんべえとさよちゃん

 むかしむかし、遠山川といって、とてもきれいで、子供達が泳いだ生魚つりをしたり、楽しめる川のほとりに遠山という村があった。
 その村には、元気で男の子をけんかの相手にし、遊んでばかりいてちっともおっかーの手伝いをせん、さよという女の子がおった。
さよは、いつも、おっとーや、おっか一に、
「さよや、女の子やでー、もう少しでいいけん優しくなれ……。」
と、心配ばっかりされていた。
そんな遠山に、一ぴきのかわらんべいが住んでおり、そのかわらんべいは村人達に、とんでもないでまかせをするのが好きで、村人達、旅をしている人達までもだましておった。

村人達は、ほんとうに困ってしまっていた。

 ある日、さよは、女の子のくせに、どろだらけになりながらも、男の子とけんかをしていると、かわらんべいがやってきて、
「おい!そこの小僧。」
さよは、けんかをやめた。
「おい、よんどるで。」
「いっいやー、そのなー、おまえ、おまえによーがあるんじゃ−。」
さよは、のそのそっと、かわらんべいの方へ行った。
「あのなー、おまえのおっとーが、たおれて、家でウーウー、うなっとるで。」 
さよは、あわてて、家にもどっていった。
家についたら、おっとーは、元気で畑を耕しておった。

「おっとー、病気はなおったのかぁー、たおれたんだらー。」
「さよ、なにいうてんだ。おっとーは、病気なんてしてねえぞ……?」
 さよは、あのとんでもないでまかせをするのが好きな、かわらんべいに、いっちょうだまされたことを知ると、
あわてて家を飛び出し、かわらんべいをやっつけに行った。

 さよは、
「こら!!かわらんべい出てこい………かわらんべい、こら出てこい かわらんべい。」

かわらんべいを見つけれたさよは、かわらんべいに、男の子とけんかをしても、まけたことのない体でむかって
行った。
 
でも、はじめてけんかをして、最後にはまけてしまった。
かわらんべいは、さよをよけて、笑いながら、サッサ、サッサと、にげて行ってしまった。

 さよは、家に帰った。
さよは、ほんとうにけんかで負けたことが悲しくて、悲しくて、シクシク、二、三日の間は一言もしゃべらない。

あのけんかばかりした娘が、おとなしくなり、いつものさよとは、ぜんぜんちがうさよだった。
でも、おっとーや、おっかーは、いつもとちがうさよをみては、おとなしくなったけど、やっぱりちょっとは心配だった。

 ある日、とても暑い日だった。
さよは、まどの外を見ておると、かげろうの中から、変なおばあさんが出てきて、

「さよちゃんや、私がかわらんべいのやっつけ方をおしえてやろう。でも一つだけ約束がある……守れるかな。」
「うん、約束する。」
「私は、おまえだけのために、かわらんべいのやっつけ方をおしえるわけじゃーないぞ、村人達のためにもおしえるんじゃー、わかるかな。」

さよは、こまったような顔をして、
「どうしてじゃー。」
「そりゃ−、かわらんべいは、おまえばっかしをだましたんじゃーない、村人達だってさんざんだまされ、困っているんだから。」
おばあさんは、優しそうにほほえんでつづけた。
「おまえは、男の子とけんかばかりしとる、それで、おまえと約束だけんど、ぜったいにけんかをしんと………守れるかな。」
「うん、守れる。村人達のためでもあるもん、絶対に守るから、おしえて。」
 「それじゃー、かわらんべいのやっつけ方をおしえてやろう。あのなー、ほとけ様にせんじてあるお茶をのんでかわらんべいのところへ行け、そしたら、やっつけることができる。村人達のねがいがかなう。さよ、さっきの約束をぜったいにやぶるなよ………。」
変なおばあさんは、かわらんべいのやっつけ方をおしえてくれると、スーツときえていってしまった。
「わかった、わかった、ありがとう。」
さよは、あわててほとけ様の所へ行って、
「村人達、私のために、お茶を少々のませて下さいませ、おねがいします。」
と、おねがいして、ゴクゴクのむと、すぐかわらんべいをさがしに行った。
「おーい、かわらんべい、こんどこそ私がやっつけてやる。出てこーい。」
かわらんべいが、木の間から、ノソノソと出てきた。
「かわらんべい、こんどは、私がやっつけてやる。」
大声を出し、むかっていった。
すると、

「おっとまった。おまえ、ほとけ様のお茶をのんどるな。」
「うっ、うっ、うん!!」
「ちっ、ちっ、ちかよるな。わしが、わるかった、あやまるから、ゆっ、ゆっ、ゆるしてくれ。」
「ぜったいもう、人をだましたりしません。」
と、あわててにげて行った。
 さよは、こんなに早くやっつけれるとは思いもよらなかった。
それから、かわらんべいは、ぜったい、村人達をだまさなくなり、さよもまたおばあさんとの約束、男の子とのけんかをしなくなり、おっとーや、おっかーのいうことはよくきき、優しい娘になったという話だと。

 めでたし、めでたし。

 観音さま