き つ ね と 長者

 昔、この村によくばりで、いじきたない長者がおった。
その長者は、人をだますことが好きで、村人にたいへんきらわれておった。
それでも長者は、今度は、きつねを使って一もうけしようと思いついた。
そして、山から小ぎつねを取ってきて、ものすげぇ〜こわあ〜い化け物に化けるように飼いならした。

 
 そのうち、きつねは、りっぱに大きくなり今では、長者も、腰を抜かすほど、こわあ〜い物に化け
れるようになった。
 
長者は、きつねを旅人がよく歩く山道につれていって、鬼や、ばかでけぇ〜竜に化けさせ、旅人をお
どかし、金や刀をだまし取った。
 
ところが、きつねは、長者に対して、反感を抱いてきた。
それは、「おれは、まちがっていた。あんな人間の食い残しを食べさせられ、長者にだまされているなんて。」
とか
「長者は、よくばりで悪いやつだ。」とか。
そう思っているうちに、長者の、おばあさんが、長者に、こきつかわれて、死んでいったのを思いだした。
 
「このままだと、おれも、あのおばあさんのように、こきつかわれ死んでしまうぞ。」

 そこで、きつねは、今度は、旅人ではなく、長者をだまそうと、その次の日に、仲間の、ごん太の所に
行って、相談をした。その結果、今までのように、きつねは、旅人をだますようにした。

 ごん太は、旅人になりすまして、お金は石で刀は木で作る。
そこで、旅人に化けたごん太が、鬼に化かされたふりをして、それをおいていく、というふうになった。 
そこで、次の日からやるようになり、きつねは、長者のところにもどった。
 
その次の日も、きつねはいつものように長者につれられて、山道に行った。
そして、きつねは、いつものように、鬼に化けた。

 それから、ちょっとたって、旅人に化けたごん太がきた。
 「やい旅人、おまえのもっている、お金と刀全部出さんと、殺してしまうぞ。」
 「は、は、はい、わかりました。お、お金は全部出すから、命だけは。」
 旅人は、お金を鬼の前に出すと、すぐに山を駆け降りて行った。
 長者は、 
「もうけた、もうけた。今日は、たくさんある。」

 だまされているとはしらず、きつねには、本物のお金を少しやった。
 そして、
 「よっこいしょ、よっこらしょ。」
と村まで降りて行った。そこでお金を倉の中へ入れておいた。

 倉の中には、このようにためた、お金など一回一回やるたんび、どんどんふえてきた。
やがて、倉の中は、ぎっしりとなった。
次の日に、長者は、そのお金を、見ずには、いられず倉の中を見てみた。

 「なんだ、これは!石ばかりで、金がないぞ。刀もどこにもないぞ。どうしたんだ……。」
 ほんに、そこには、だましとったお金などどこにもみあたらなかった。
長者の顔は青ざめて、いつまでも、ぼけ〜えっとしておった。

 そしてきつねは、長者からもらったお金を貧しい農民にわけてやった。
 長者は、どんどん、お金がなくなり、びんぼうで、きたないこじきとなり、
みんなからばかにされて暮したということだ。

 弘法様の恩返し