皇 神 様

 昔、昔、遠山ってとこにな、大きな池があったんな。
その池はな、広くて、青くて、すごく澄んでおった。
また、春になると池の周りは花園のようにいっぱい花がさいたんだ。
 
今も、その池の周りで子供が遊んでおる。

「おーい、何するか。」
「鬼ごっこやろう。」
「ほら、おらが鬼になってやる。」
「キャー。」
けれど、
「ザーザー。」
池の中から、大ヘビが出よった。

 それを見た子供二人は、いちもくさんに家へとんで帰った。
「おっかー。大ヘビが……大ヘビが、池に出よった。」
このことが、村の端から端へ渡った。
「きのう、村はずれの池から大ヘビが出たんだと。」
「そうだとな。おみよとまさ吉が見たとよう。」
どんどんと広まり、とうとう村一番のお金持ちの八万石の殿様、皇神様という立派なお人の耳にも入った。
「そちたち、きのうあったことをしっておるか?」
「えー、まあしっておりますが。」
「それでな、わしは、その大ヘビをつかまえたいのだ。さっそく明日日の出とともに大ヘビ狩りに出かけるぞ。」
本当は、この皇神様こそが村一番のけちなお人だった。
「明日は、絶対私のものとして、連れ帰ってくるぞ。」
自信満々で、寝るのを忘れるくらいだった。

 次の日、はよう日が上った。
雲一つない、狩りには最高の日だった。

皇神様の後に十人くらいの人がつき、網をもって出かけた。
池の周りには、すすき、花が咲き、もうもうとしげっていた。 
そのすすきなどの間に入り混って、夕方大へビが出るのを待っていた。
ザーッ。ビューウビューウ。

「風が強くなってきたのう。」
「はい、どうしましょう………。もう、お帰りになってはいかがでしょうか?」
「わしは、なにがあっても残るぞ。」
とうとう、会話が交わされている問に、朝になってしまった。
「……ふうーまだかのう……。早く出てきておくれ………。」

 また、皇神様は、池の周りで二晩を過ごされた。
「うー。ガオガオ。」

響くいびきの中で、ザブーンと奇妙な音がした。
あわて飛び起き、見た。ところがそれは、大きな魚が飛び上がったのであった。

「なんだ、たかが魚………。」

 また、次の朝を迎えた。
「あー、もう三日たったのう。」
「もう、出て来ませんよー。帰りましょう。」
と、みなつかれているようすだった。
そして、みんな、思いどおりに三日目の朝を楽しんでいた。
すると、
「ゴーッザブーン。」
ものすごい水しぶきができ、その中からは皇神様のお求めになっていた大へビが現われた。
なんとまあでかい体で、どう体は太いし、長いし、世の中には、おらんほどの大きなへビだった。

「おお、な、なんと大きなへビだろう。これは、どこにもおらんほど大きなへビだ。」
「ほ、本当ですね………。」
 「そうだ、そうだ。私は、本当にほしくなったぞ。これを使ってちょっと仕事をやりたくなったのう。」
こうして、あばれあばれつかれきってしまったヘビは、皇神様の物として、家へ持っていかれた。
「そうだ、明日このへビをみなに見せるため、人を集めよ。」
こうして、皇神様の家では、酒をのみ、ものすごく大さわぎだった。
「それでは、みなのもの、今日私が見せたかった、三日三晩まって、やっとつかまえた大へビをお見せしよう。
ほれ、みなに見せよう。」

ふすまを開けると、ぞっとするような大きなへビがおった。
「な、な、なんという大きな………。」
ビックリしすぎて後はものをいえんものもいた。
「それでわしは、この大へビを使って、ちょっと悪だくみを考えた。ちょっとみなも手伝ってくれんかな。」
それで話はすぐまとまり、その悪だくみを開始した。
「あのな、皇神様の所には、大きなへビがおるんだわ。わしは、見させていただいたが、まあ、ものすごい大きな、
大きなへビだったわ。」

「そじゃ、おれも見てえ。どういうふうに見せてもらうのか教えてくれんか。」
「米をな、五升もっていくんだってよ。」
 そういうことで、村からそのまた村の人々の耳へ入った。
「おらも、そじゃ見てえ。」
「おらも、世の中におらんほどのへビをこの目で見とかにゃ。」
「わしも、この世に生きとる間に見とかにゃ。」

 それで、みるまに皇神様の家の前は、人々がいっぱい集まった。
子供から、大人まで、はば広い範囲の人々がおった。
窓からは、

「ほらみなさい、わしの考えはあたったろう。この手を使って、ガッポガッポもうけるぞ。」
「わしらも、手伝ったのでわけまえをくれよ。」
など、もう先のことまで話し合っていた。
ヘビは、高い部屋の窓ごしのところから、おりに入って人々に見られていた。

「ほー、すごいな。」
「わあ、母ちゃん母ちゃん、あんなに大きいな、父ちゃんより力持ちみたいだね。」
なんて、無邪気に見ておる子もおった。
そうしたら、このうわさを聞きつけ、遠い遠い都からとか、水戸とかからもくるようになった。

だから、皇神様も調子ずき、五升だった米を七升ださにゃあ見せてくれんくなった。
それでも見たい人は来た。

 その悪だくみをやって、もう一年すぎようとしておった。
すると、旅の途中のお坊さんが来た。
そのお坊さんは、服はあまりきれいではないけれど、とても立派そうなお人だった。
その日、ついたのが夕方だったので、宿へ泊まった。
やはり、その宿で大へビのことを聞かされたのだ。
その話を聞いたとたん、皇神様の悪だくみに腹をたてた。

「なんという、けちな悪いお方だろう。」
その言葉を言ったきり、そのお坊さんは、皇神様の家の前にきて、座りこんだ。

「しゅしゃくみょうにゅう………。」
と、お経のような言葉を言い始めた。
そうして少しすると、ヘビが出て来た。
見ていると、そのへビは少しずつ小さくなり、なにかの姿ににてきた。
そうしてまた見ていると今度は、お坊さんもお経をいうのもやめ、大へビを見てみると、それまたビックリ、
人間の姿になっていた。
立派な武士だ。
背も高い。足も長い。顔もよい。みんなもビックリ仰天。
 こうして、そのお坊さんが、こまかく今まで自分(大へビ)がなにをしていたか教えてやった。
そうしたら、その武士が

「なんと悪いことをしたのだろう。村人を苦しめてしまった。けれど皇神様がにくい。」

おこってしまったのだ。
こうして、朝になると、その武士は、皇神様の家へと行った。
そうして、自分の刃でその皇神様を殺した。

   ………村にも平和がおとずれた。

しんのすけとかわらんべえ