お池のたたり ―お池伝説より―

 昔々な、程野の上の方に、水がいっぱいたまった、作畑ちゅう大きな池があったんだ。
その池ではなあ、ずーつと昔、女の人の自殺があったんだって。

そこに、正吉ちゅう男と、清兵衛ちゅう男が、池をはさんで住んでおったんだ。
正吉は、そりゃあやさしいやつでなぁ、自殺した女の人の霊をおっかながって、
家の近くに社をたてて、いつもいつも、お祈りしとったんだって。
そいだが、清兵衛ちゅうやつは、里から越してきた、ひねくれた男で、池のことなんか何にも知らん。
そいだもんで、池にゴミをほ一ったりして、まるで、池を汚しに越してきたようなものだったんだ。

 ある日、正吉が社でお祈りをしとった。
そうしたらなぁ、どこだかわからんかったけど、女の人の声が聞こえてきた。

「おーい、だれか来ててぇ、助けてぇ、おーい。」
と何度も何度も……。
その声はなぁ、正吉だけに聞こえたんだって。正吉はたまげてな、あたりを見回した。
そうしたらい清兵衛が池に石をほ一って、何だかやっとった。
正吉は、あわてて清兵に、向かって叫んだ。

「こら一っ、何やっとるー、やめろー!。」

そいだが清兵衛は、そんなこたぁかまわっこ遊んどったんだ。
「やめろっちゅうに。」

正吉がとんできて、
「この他ではな、昔……。」
と言いかけると、
清兵衛は、

「うるせえ、うるせえ、おら、もう帰るわ、また明日来るわな。」

そう言って歩き出した。
そいだら、正吉が、
「ちょっと待て。この他じゃあ、自殺があったんだ。ずっと昔、女の人の
自殺が!だもんで、この池を汚したり、変なことをするヤツには、必ずたたりがおこるっつう言
い伝えがあるじゃねえか。おめーは知らんのか!」

「知らねえ、知らねえ。それに、そんなこたぁ、おれにゃあ関係ねえよ、んじゃあばよ。」

清兵衛は、そう言って行っちゃったんだ。

正吉は、その日のことが気になって気になって、夜もねれなんだ。

まんまるい月が出て、明るい夜だったんだって。ちょっとたって、正吉がうとうとしかかった。

「ゴーッ、ザザーン!」

地球が爆発でもしたような、そりゃあ、でっかい音がしたんだ。
正吉は、たまげてとび起きた。
外を見ると、なんと、あんなになみなみしとった池の水が、一滴もなかったんだって。
そいでな、清兵衛のうちもなかったんだ。
清兵衛は、活けにゴミをほ一って汚したり、石をほ一って遊んだりしとったもんだから、
ばちがあたって、清兵衛も清兵衛のうちも、池の大水に流されちゃったんだ。

正吉は、ほんとうにやさしい男だったもんで、清兵衛のような、ひねくれたヤツのことでも、
気の毒に思ったんだ。そいで、お池のまん中に、お祠を作って祭った。
そのあと、正吉は、何の苦労もせず、いつまでも楽に暮らしたんだってさ。
 それからというもの、この、水のなくなった池のことを、村の人達は、「から池」と呼ぶようになった。
そうして、正吉の祭ったお祠は、今でも残っているという。

  おせんの恐怖遭遇記