おせんの恐怖遭遇記     

 むかしむかし、この遠山谷の中根におせんという人がおった。
このおせんという女の人は、ものすごく気が強くて、毎日けんかをしているというありさまだった。
たまには、男の衆たちともけんかをして、村ではたいへんなひょうばんだった。
だけどこのおせんにもいいことが一つあった。それは弱い者いじめをしないことだ。
今までおせんのことで弱い者いじめということがでたことはなかった。

 ある日、おせんが村の男の衆たちとけんかをしておると、
「おーい!たごさくが神かくしに会ったぞー」とげんべいがいいながら走ってきた。
男の衆たちは「本当か!」とびっくりしてきいた。
げんべいは

「ああー本当じゃ、きのうの朝からいなくなったもんで探してみたが、どこにもおらんのじゃ。」
と顔を真赤にして言った。
 このたごさくというのはおせんの弟で、おせんはそのことをきき、生まれてはじめて涙を流した。
村の衆はびっくらこいて腰をぬかすくらいだった。

 次の日、お昼ごろおせんがでっけえ淵の近くを歩いていると、向こう岸にごろべいがいたので、
「お−い、ごろべいさー」とよんだ。
するといっしゅんにして淵のまわりがくらくなり長細えへびみたいな者が現われてごろべいを食ってしまった。
おせんはびっくらこいてかくれようとした。
そしてとっさに木のかげにかくれた。おせんはどきょうのいい人だったが、このときばかりはびっくりした。
そして村へ戻り村の衆に

「今、ものすごく細長えもんがごろべいを食った。」と村の衆たちに話した。
村の衆は一人も信用せず、逆に「おせんのうそつき女」などといい石をぶつけるものさえいた。
 だが一人だけ信用した人がいた。
それはおせんの近くに住んでいる信之助という浪人ふうの人だった。
その人は昔役人をやっていたらしく左目と右手がなかった。
おせんは昔から気味悪く思っていたが、このときばかりはうれしかった。
この人はいろんなことを知っており、おせんの見たもんは大蛇だと教えてくれた。
おせんは「大蛇というのか、必ず弟のかたきはとってやる」と心に誓った。

 次の日、信之助という人とどうつかまえるか考えた。
そして信之助の意見でわなをしかけることにした。
このわなというのは、まず落とし穴を作り、大蛇が入ったら石が落ちるしかけなのだ。
おせんは「これでつかまえられるぞ!」と言ってよろこんだ。
そして、その日のうちにわなをつくり、大蛇をおびきよせた。
うまくわなにひっかかったことはひっかかったが、あまりに石がかるすぎて大蛇が逃げていってしまった。
それから、ちょっとの間大蛇は用心してでてこんかった。

おせんはその間にもっと重い石を用意した。

 ちょっとすると、大蛇がまた村にきて人を食うようになった。
そしてひましに村の若い衆がおらんこなった。
残ったのは、おせんと信之助、あと年寄りだけだった。

年寄りは夜もこわくてねむれんらしく毎日家が明るかった。
なかには、逃げるために荷物を用意する人もおった。
おせんはこれじゃあ村がだめになると考え、大蛇をつかまえるためのわなをまた考えた。
だけど、何日たってもわからんかった。

 ある日、ちょうど旅のおぼうさんが通っていった。
おせんはこれぞとばかりに、
「おぼうさん、今私たちの村は、たいへんな目にあっております。どうか助けて下さい。」
とおぼうさんにたのんだ。
そしてしかじかこうですと今まであったことを話した。
おぼうさんは「こんなことは今まで旅をしてきてきいたことはない。」といって熱心に聞いた。

 そして、おぼうさんは少し考えてから
「大蛇をたおすにはのおー、千力というものを村のまわりにはるんじゃ。」と教え村を出ていった。
おせんは「よーし、こんどこそ大蛇をやっつけてやる!」と心に思った。

 そしてその千力という物をさがしに旅に出た。
だがどこへ言っても、「そんなもんしらん」と言われた。
そしてそんなことが何度も続いているうちについに見つかった。
 そこは遠山谷より山の中で、小鹿村というところだった。
おせんが小鹿村へついた時はもう食べる物も底をついとった。
おせんはしょうがないので小鹿村の人に食べる物をもらって食べた。
そして村の長老に千力はどこにあるか聞いた。
 長老は、

「千力はのー、あの山の頂上にある。」と教えてくれた。
おせんはすぐ山に登ろうとしたくをした。
そこへ村の長老がきて「今日はのぼらんほうがええー。」と教えてくれた。
おせんはその意味がわからんもんで、

「なんでのぼっちゃああかんの。」と聞いた。
長老は
「今あの頂上に霧がたっているだろう。あそこのあたりはがけじゃ、
だからのぼるとき見えんだろう。」と教えてくれた。
おせんは「ああーそうか
!!」と言った。
そしてその日はのぼるのをやめて、次の日にした。
だが次の日も霧がたっていた。
おせんは、しょうがないので次の日にした。
だが次の日もだめだった。そして次の日も次の日もだめだった。
いくどかこうゆうことが続いた。

 そしてある日おせんはこんなことばっかりやっとったらあかんと思い山にのぼった。
はじめのうちはあまりけわしくなかったが上へいくにつれてけわしくなってきた。
そしてやっとがけのとこにきた。
そこで「えいしょ!えいしょ!」とかけ声をかけて登っていった。
途中で石がはずれて落ちそうになったりした。
そしてついに頂上についた。
そこで千力をとってすぐにおりてきて、長老たちにわかれをいいすぐ村へと帰っていった。
途中、さんぞくにあい、つかまりそうになったこともあった。
そしてやっと村につきすぐ村のまわりに千力をはった。
夜になると大蛇があらわれ村に向かってきた。

村の衆たちは食われると思い、にげようとした。
だが大蛇は千力を見たとたんにげていってしまった。
おせんは「今殺せば」と思い鉄砲で大蛇めがけて撃った。
撃った玉は大蛇の足にあたり、大蛇は「ドスーン!」と音をたててたおれた。
おせんは走っていって大蛇をひもでしばった。
そして、大蛇の足をほうたいでしばり木につないでおいた。

 次の日信之助が大蛇を見にきた。
信之助はこんなものかとびっくりして見ていた。
それから信之助が「この大蛇をどうする。」ときいてきた。

おせんは「もう少しここにしばりつけておくか。」と答えた。
信之助は不満のある顔をしていた。
次の日また信之助は同じことを聞いた。
おせんは少し考えてから
「大蛇にもうやらんという約束をさせればいいじゃねえか
!!」と言った。
信之助は「言葉もわからん大蛇にどうやってさせるのよ
!!!」とけんかをするみたいに言った。

 すると大蛇が「言葉はわかる」と横から口をはさんだ。
するとすぐおせんが「もう村の衆たちを食わんてゆったら淵にかえしてやる
」と言った。
大蛇はよろこんで「本当か
本当に約束すればかえしてくれるんだな。」
とねん
を押すように聞いた。
おせんは「ああー、かえしてやるとも
!!」と力強くいった。
 大蛇は「そんなら約束する
!」と大声でいった。
おせんはなわをすぐほどいて淵にかえしてやった。

 それからはもう大蛇は出てこなくなった。
それから
2年たちまだ年が若いのにおせんは死んでしまった。
それからおせん淵となった。

  鬼ケ城