おらとすもうとらねえか!

 ポーン 今十二時三十分
四才のあまえんぼまさき君はまだねむれません。
そこでお母さんは、昔おばあさんに話してもらった話をしてやることにしました。

「昔々、中根の川でなー。じんぱちという、そうだなー、まさきぐらいの年の子がおってな−。」
お母さんはゆっくりと話し始めました。
「そしてなー、そのじんぱちがつりをしとったらカッパがでてきてなー、じんぱちに
すもうとらねえかと言ったんだに。
力もちのじんぱちは力だけは自信があったもんで
よしやろうと言ってなー、すもうをとり始めたんだよ。」

「それでじんぱちは勝ったんだらよ。」
とまさき君は横から口をはさんできました。
もしかしてねてくれないんじゃないかなと思いましたが、お母さんはまた話を続けました。

「それがなー、負けたのよ。そいだもんでじんぱちはくやしくてくやしくて何とかカッパ
に勝てんもんかとしょっちゅうカッパとすもうをとっとったんだに。
そんなとこを見とったのがひろべえでなー。
ひろべえはじんぱちにいつも泣かされとったもんで何とかおらがカッパに勝ってやろうと
考えたんだよ。それで思いついたのがいつもカッパが歌っとる歌でなー。

 おいらは何もこわくない。おおかみだって嵐だって、だけどちょっと苦手なのはくさ
った魚と仏の茶〃

こんな歌だったと思うがなー。

 そいで次の日ひろべえはカッパのくるのをまっていたのよ。
そいでカッパが来たらすもうとらねえか
とカッパの方から言ってきたもんでひろべえはおう!やってやるわ
と自信ありげに答えたんだってよ。

それからすもうをとり始めてやっぱりひろべえが勝ってなー。
カッパは口をとんがらせてこう言ったんだってよ。
おめえ仏の茶を飲んできたなーてな。そしていちもくさんに逃げていったんだって。
 よほどカッパは仏の茶がきらいだったんだなー。
それからつりに行く時にゃあみんな仏の茶を飲んで行くんでカッパはちょっとも現れんかったんだってよ。
ひろべえはなー。ちょっとかわいそうになってな。

その日ひろべえが川でつった魚と中根の山の清水をいっぱいカッパのねぐらへ置いてきたんだってよ。

 じんぱちはなー、それ以来ひろべえを泣かさんくなってなー。
力だけじゃあ何にも勝てんちゅうことがわかってそれからはひろべえと仲よくしたんだってよ。
これでこの話はおしまい。」

とお母さんは話を終わらせました。

 まさき君はいつの問にかねむっていました。
どこまでこの話を聞いたかは知りませんが、でもこの話をしてよかったー。
とお母さんは思いました。

 まさき君が十年二十年たってお父さんになったらお母さんのように
子どもにこの話をしてやるんでしょうね。

 おわんぶち