太郎の鬼退治

 昔々、遠山の奥の山のふもとに小さな村があったそうな。
その村に太郎という子がおってな、太郎は、村一番の元気のいい子だった。

 さて、今年もまた秋がやってきた。
いつもは静かなこの村も、秋がやってくるとにぎやかになる。
 でも、毎年毎年秋がくると山からおにがやってきて、せっかく実った稲もめちゃくちゃにしていってしまう。
乱ぼうなおにだったから、村人達はおっかながっておにをやっつけようとはせんかった。

 ある秋の日、村人達はみんな田んぼに出て稲をかっていた。
お日さまの光をうけて稲は黄金色にかがやいてまぶしい。

「おーい、ごさく、おめえのとこの稲のできはどうでぇ。」
「今年のできはいいぞー。これでおにのやつがこなかったら豊作だ!」
「おーそぉけ、そぉけ。そんじゃまあ、はやいとこかっちまうべ。」
村人達の声が風にのって神社の大きな木の上までやってくる。
太郎は村はずれの神社の大木の上から見おろす、こんな景色が好きだった。
 お日さまが、そろそろ頭の上にさしかかろうとしていた時、山の方からなんやら大きな音が聞こえてくる。
木をたおすような音もする。

「ドシーン。ドシーン。バキ、メリメリ!!」
それは、だんだん村へ村へと近づいてくる。
「ドシーン。ドシーン。バキバキ。」
その音は、村人達の耳にまでとどいた。
村人達は、青ざめたまま動かなかった。

「おにだぁー。おにがくるぞ。はやく稲をなやへはこびこめ ―。」
平吉がさけんだ。その言葉を聞いたとたん、村人達がざわめきだした。
そして、あわてふためいて今までかった稲をなやへ運んだ。
「はやくしろー。はやく運びこめー。おにがきたらおしまいだぞー。」
誰かがさけんでいる。みんな必死だ。
「おにだ!!」
みはっていた誰かがさけんだ。

「わぁー。はやくにげろー。」
「うわぁー。はやく、はやくにげるんだー。ころされてしまうぞー。」

 おにが姿をあらわした。
村人達があわてふためいているうちに村へやってきて、あばれまわっている。
村人達は、一目さんに家へとかけこみ、戸をしめきってしまう。
おにのやつは、みんながこわがってにげるのをみて、いい気になって田んぼをあらしまわっている。
苦労してつくった稲もふまれてめちゃめちゃになっていく。
村人達は、ふるえながら、あらされてめちゃめちゃになっていく田んぼを、ふみしだかれていく稲をみていた。

 太郎はと申しますと、村のようすがおかしいことにやっと気づいたようで、いそいで木からとびおり、村へ
とかけていった。
走っていく途中「まさか……。またおにのやつが………。」

と、いやな予感がした。
太郎の予感はあたった。
太郎がきたとき、村はめちゃくちゃになり、さっきまであばれまわっていたおにの姿は、どこにもなかった。
太郎は、田んぼの方に目をやった。
ひどいものだ、せっかく実った稲もふみしだかれ、稲穂がおち、おれまがって、ぐたーっとなっている。

「ちくしょー。おにのやつめ、田んぼを田んぼをこんなにしやがってよぉし、おいらが、あのおにをやっつけ
てやる!!」

太郎は、かたく決心した。

 さて次の日、太郎は一日中、家の中にとじこもって、やっつける方法を考えておった。
何日も何日も考えたけど、いい考えはちっともうかばんかった。

 ある夜のことだった。
いい考えがうかばず床につき、眠りにおちていった太郎の夢の中に……

「これ太郎。太郎や、太郎! あーこほん。えー太郎よく聞くのじゃぞ。わしはあの神社の神様じゃ。わしが
おまえに知恵をさずけてあげよう。あのおにはなぁ、こりゃ太郎、ちゃんと聞かんかい! あのおにはなぁ、
山のおくに住んどるんじゃ。なに?そんなことしっとる。そぉけ、しっとるけ、太郎。それでなぁ、あのおに
には、よめさんがおるんじゃ。そのよめさんはなぁ、人間のにおいに敏感じゃから、へたに行くと気づかれる
でなぁ、おにが昼寝をしているときに行くがよい。ちょうどお日さまが、頭の上にきたあたりに行くとよいぞ。それから、おきるとおには、めしをくうで、やいた石を入れたにぎりめしをくわせるのじゃ。これは、ねてい
るとき、入口においておけ。食い意地がはっている上に、はらもすいておるでのぉ、きっとくうぞ。あー、そ
れから、おいたらすぐ山をおりるのだぞ。気づかれんようにな。それでは、成功をいのるぞ。さらばじゃ太郎。」

 翌日、太郎は昨日の夢のことをじいさんとばあさんに話してみた。
じいさ、ばあさは、太郎をたいそうかわいがっていたから反対した。
そこで太郎は、村の大人衆に話してみた。
「だから、おににやいた石を入れたおにぎりを食べさせろって、神様が………。」
「神様あ!?…そんなのしるか!」
「おににやるお米なんてないんだよ!」
「でも、おにをやっつければ、来年からは、お米だってたくさんとれるんだよ。田んぼだってあらされずにす
むんだよ。」

「そ、そりゃぁそうかもしれないが……。とにかく、お米がねぇんだよ。なぁそうだろっ五平よぉ。」
「おー。おらんとこにも、どこにも米はねぇだよ。今年一年もつかどうかもわかんねぇっちゅうに……なあ、
太郎、あきらめろや。」

「もう、いいよ!」

太郎は、村人にも相手にされなかった。
そこで、今度は子供達を神社に集めて、そのことを話してみた。
好奇心おうせいな子供達ばかりだったので、その話にすぐのった。

「ここの神様が、そうやれっておしえてくれたんだよ。なあみんな、おらたちでおにをやっつけてみんか?」
「うーん、おもしろそうだな。おらやってもええだよ。風太は?」
「源太やるのかよぉ、こわいけどおもしろそうだなぁ、うん、いっちょやるべ。」
「さよもやるー。」
「さよちゃんやるだか。さよちゃんやるならおらもやる。」
「おすずもさよも、これはあそびじゃないんだぞ。わかってるか?」
「わかってるよー。太郎、だいじょうぶ。」
「三郎は?」
「うーん。ちょっとこわいけど……。やるよ。」
「よーし、きまった。おにたいじは明日だ。今日はなぁ、にぎりめしをどうするか考えようぜ。」
「なあ太郎、みんなのうちから、二つずつもってきたら?」
「でも、どうやってもってくるんだよ。源太。」
「それはさー。考えるのさ。うそつくのはよくないけど、本当のこと言ったら、くれんから………。」
「それじゃあ、明日ちゃんともってこいよ。」
「うん。二つでいいか?」
「うん。いいだ。それじゃあ帰るか。」
「うん。じやあな。」
そう言って、みんな帰っていった。

 次の日、みんな神社にあつまった。
それから川原へ行き、仕事をしはじめた。

「さよとおすずは石をあつめてくれ、おにぎりに入るくらいのだぞ。風太と源太と三郎とおいらは、木をあ
つめに行こう。」

みんな、それぞれ自分の仕事にとりかかった。木をたくさんあつめてもやして、その中にひろってきた石をいれてやいた。

 そろそろお日さまが頭の上あたりにきたころ、やっとできあがった。
石もちゃーんとにぎりめしの中に入れた。
「さあ、おにたいじだ。みんながんばれよ。」
太郎がさけんだ。
 おにの住んでいる山まで、そう遠くはない。
みんなは、いさんで歩きはじめた。
山道に入ると、木をたおしたあとがあるのを見つけた。
これを見て、みんなはこわくなってにげだしたかったけど、いっしょうけんめいこらえて、歩いて行った。
ずんずん歩いて行くと、ちょっと広いとこに出た。
 そのむこうに、ボロくさい家がある。そこがおにの家だ。
うんよく、おにはねている。

「いいか、おにぎりをおいたら、すぐもどるんだぞ。おにがおきたらおらたち殺されてしまうかもしれねぇからな。」
「うん。わかった太郎。」
「よーし。いくぞ。」
みんなドキドキしながら、太郎のあとについていく。
いざとなるとこわくてこわくて、みんなふるえとった。
それでもなんとか入口の前において、一目さんに山をかけおりていった。
もう、おりるときなんて、はやいのなんのって。

「ハァハァ、おにがおにぎりに気づくかな。」
「きっと気づくさ。ハァハァ。でも、こわかったなぁ源太。」
「ハァハァ。うん。もうおらふるえがとまらなんだ。おにのやつ、もうそろそろ、おきるぞー。」
「うん。うまくいくといいな太郎。」
「きっとうまくいくさぁ。」

 太郎たちが、神社の大きな木の下でそんなことを話していると、
「あぢ!あぢ! あじーよぉオンオンオーン。」
山の方から、大きな大きな声がきこえたと。
うまくいったらしく、おにはおなかをやけどしてしまい、ねこんでしまったそうな。

 その日から、村におにの姿はみあたらんくなった。
翌年からは、たいそう米がとれるようになったそうな。
そうして、村は平和になり、子供たちの元気な声がしている。

 太郎は今日も神社でみんなといっしょにあそんでいる。
 

 地の神