便 り が 島


 今から約三六〇年前、本谷の奥での話です。
 
ある日のことだ。和田村で百姓一揆がおこったと。
村人たちはすげーうらんどって、土佐守を暗殺しようとたくらんでいたそうな。
土佐守がそのことにきづいたのは、村人たちが城にかけ上がってくるときだったそうな。
そんで自分の姫君をにがしてやろうと思ったそうな。
 
姫君は、  
「いっしょに、にげましょうや。」

と言ったが、  
「おれは、ここにのこらねばならぬ。」

などといじをはって殿様はいっしょに、にげようとはしなかった。
「それでは父上おたっしゃで。」 
 姫君は一、二の侍女をつれて城をおちのびたそうな。
そして、そのまま姫君たちはひっしににげたんな。
村人たちがあとからおってくるのではねえかと思って、ひっしににげたそうな。
和田村から、木沢村まで約、一里か二里はあるけんな。
それを承知で姫君たちはこせみちをはしったそうな。
  
「ハーハー」
  
「ゼーゼー」

と息苦しくなってくると、ゆっくりあるいたり、たんと休んだりして、木沢村までなんとかにげたそうな。
そんでも木沢村にいてはあぶねえのではねえかと思ってどんどんとにげていったそうな。
 急に、
  
「ブウォー、ブウォー、ブウォー」

と、ほらがいがなった。姫君たちはあわてたそうな。それもそうだ。
それは、姫君たちを、本谷の方へおいこんで、つかまえろという命令のあいずだったのだ。
そんで村人たちがおいかけてくるので、こせみちをにげていったそうな。
 それでとうとうおいこまれて、本谷の方へ入っていった。
そして、上のまちやでまっていた村人たちが、姫君たちの前に出てきて、はさみうちにしようと考えていたんだ、
でもなー、
姫君たちの足がはやくてその作戦はしっぱいしてしまった。
 それでも、一本道なので、姫君たちをつかまえられるかと思い、後の方からずっと姫君たちをおっていった。
 「まてー」といっておいかけてくる。
姫君たちは、
 
「ハーハー」
 
「ゼーゼー」

といいながら、どんどんと道をはしってにげていった。
 姫君と、侍女たちは、道にまよったらしく、後をみても村人たちの姿はみえなかった。
そこで、つかれたのでよこになっていた。
半時がすぎて、あかりがなくてこまっていると、きりの中から、白いひげでかみの毛も真白な、おじいさんが
あらわれた。その人は仙人様である。
その仙人様は、
姫君たちの身方らしく、 
「ここに住みなさい。ここにいれば村人たちにみつからないじゃろ」
と言ってロウソクも、二、三本おき、またきりの中に消えていった。


 そして、姫君たちは、勇気を出して、ここに住むことにしたと。
さみしいのをがまんして、便りがほしい、ほしいと思いながら…………。
 
いくんちかたって、村人たちが本谷の奥の方をさがしまわったと。
けんども姫君たちの姿はみあたらなかった…………。
姫君たちが本谷の奥の方で住んでいるということはだれも知らない。

 便りがほしい、ほしいとくり返し、くり返し言ったので、ここを便りが島と名付けたのである。

 天狗の罰