山姥 と 焼 め し

 むかし、程野というところに、多賀屋という店があった。
この店は遠山土佐守が、参勤交代の途中で、休んでいった、たいへん大きな店であった。
この店では山から、山藤をとってきてそれをにて、たたいて、藤糸をとるという仕事をしておったそうだ。

 だがこの多賀屋にはいつのころからか、山姥がおりてきて、藤糸とりの手伝いをするようになった。
山姥はみんなが藤糸とりをしているとよこでそれを手伝っとったもんで、みんな気にせっこ仕事をしとった。
多賀屋では山姥があんまりいっしょうけんめいやりよるもんで、焼めしを毎日毎日作ってやっちょった。
山姥は焼めしほしさに毎日多賀屋にきて焼めしをもらって帰りよった。

 だがだんだん仕事がおもしろくなくなってきた山姥は、それから少しずついたずらをしだした。
だが多賀屋では「いい子だ、いい子だ。」

とゆって焼めしをやっとった。
だけんど山姥のいたずらはもっとひどくなっていく。
せっかくとった藤糸を火の中に入れてもしちまったりそれはひどいもんだった。
多賀屋でもせっかくとった藤糸をやかれてしまっても、ただ「こまったもんだ。」
と言うだけでなんもせんかった。

 毎日毎日山からおりてきていたずらして焼めしをもらってかえっていく山姥を見てみんなは口ぐちに
「こまったもんだ、こまったもんだ。」
と言うだけであった。
ますますいたずらはひどくなりたえきれなくなった使用人たちはだんなさんにこう言ったそうだ。

 「だんなさま、このままでは店はおしまいです。山姥にもう焼めしをやらんようにして手伝いにこないでもよい
といっておいだしてしまいましょう。」

だんなさまは考えこんでいたが頭をあげてよこにふった。
 「だめだそんなことで山姥があきらめるはずがない。」
みんな考えこんだ。
そのようすをとなりの部屋からみていた多賀屋のばあさまが、
「なにそんなに考えこむことがある。」と。

 みんなはびっくりしてばあさまを見あげた。
 「わしにいい案がある。ちょっと耳をかしてみょう。」
と言うたのでみんなはどんな名案があるかと寄っていった。
みんなは部屋のすみでこそこそ話していたが、使用人の一人が
「それはいい案だ。その手で山姥を退治しようでねえか。」
と言った。
それからみんなは、また仕事をはじめた。

 つぎの日ばあさまは川にいって石ころをひろった。
ばあさまはげんこつほどの石ころをいくつもひろって、かごに入れて家にもって帰った。
ばあさまは家に帰り火をたいてその中に石を入れ赤くなるまで焼いたそうだ。
それからばあさまはお焼きのでっけえのをいくつも作っちょった。
焼けたお焼きの中にまっかになった石を入れ紙にくるんで山姥が山からおりてくるのをまった。

 夜になって山姥が山からおりてきた。みんなはなにくわぬ顔をして藤糸をとっちょった。
山姥はどんなことになるかもわからんに部屋にはいってきよった。
そしてまたみんなのそばにいっていたずらしちょったが、みんながあんまし無視しているのでおこってかえってしもうた。
これにびっくりしたのは店の使用人じゃった。

「せっかくばあさまが用意しちょったのになあ……。」
とみんないっとったが、ばあさまは、
「これくらいのことでくじけとってどうする、山姥退治なんてでけんぞ。」
といっておくの部屋に入っていったそうだ。

みんなは残念がっとったが、今夜は早くねて明日また山姥を退治しようちゅうことになった。

 そん次ん日、ばあさまはまた石をひろってきて、お焼きん中に、まっかに焼けた石を入れてまた山姥がおりてくるのを
まっていた。

 それからすこしして山からおりてきた山姥は、こんどは帰りもせっこ使用人の横でいたずらしちょった。
夜もおそうなったころ多賀屋のばあさまが、
「いい子じゃ、いい子じゃのう、ほれ外も暗ろうなったしおなかもすいたろうに、このお焼きをもって帰りな。」
といってさっきのお焼きをわたしてやった。
山姥はお焼きをもってよろこんで山にかえっていった。
 山姥は山にかえってすぐ紙からお焼きを出して食べよった。
そのとたん山姥は奇妙な、でっけえうなり声をあげただ。
お焼きの中がまっかに焼いた石だったもんで腹ん中さ火がついたんだ。

山姥は火をふいてあばれまくる。
「わあーたすけてくれー。」
「ゴオー.コオーメリメリ!」 
「ザザーンド
ッシャーン!。」

 山は炎を高くあげもえさかった。
木はやけおち山姥も見えんようになった。
山は一晩もえさかり、山姥の声もきこえなくなり、火もだんだん小さくなり、朝方になりきえた。

 それから多賀屋ははんじょうするようになり山姥もこんようになった。
そして山姥の被害もなくなりこの村も平和になっていったんだ。
                                                         おわり

 ある峠物語