やさしい息子と山ぎつね

 まだあれが結婚する前だけどな、上村の上町というところに竹三郎という人が、母と二人ですんどった。
竹三郎は上村でたった一人の郵便配達人。
朝から晩まで働きづめの毎日だったので、一日も休める日がなかった。
 
 ある日郵便局から帰った竹三郎は、「おかあ、おりゃあこれから下栗に急ぎの電報をもっていかんならん。」
と言って用意をしとると、「こんなに暗いであしたにすればいいに。あしたじゃいかんか。」
と母は心配そうに言った。
でも竹三郎は「二時間ばかすりゃあ帰ってくるわ。そんなに心配することねえって。

おかあさきにねとれよ。」といって雪の中にきえていった。

 しかし竹三郎は十時になっても帰ってこんかった。
十一時になっても帰ってこんかった。
 
ヒュー ヒュー ピューン

外は吹雪で道はわからなくなるし、となりの家がやっと見えるくらいだった。
おかあは、

「竹三郎はもしかして道をまちがえておるんじゃねえかぁ。この寒さで死んじゃったんだかぁ。竹三郎なら大丈夫だと
思うがな。」

と心配そうにまっとった。

 下栗へ行った竹三郎は電報を届けて、帰るときにほし柿を串にさしたやつをもらった。
ほし柿をポッケに入れるとおかあがまっとるかもしれん。と思っていそいでおりていった。
そいで、ナナクボまできたら下の方から火がみえた。
だもんで
「だれかがおらを心配してむかえにきたかもしれん。」
と思い、火の方へ近づこうとした。
近づこうとして必死に歩いた。でも近づけなかった。
なんか気味が悪くなり、身ぶるいしてきた。しかし勇気を出して
「そこにおるのはだれだよ。」

ときいたけど返事がなかった。
だからもう一度

「返事をしてくれ。どこの人よ。だれだかわからんよ。」
と言った。
その不気味なものは、竹三郎に近づいてきた。
竹三郎は近づいてくるものに火をてらしてみた。
おうど色で毛がふさふさしているが、背中には少し雪がつもっていた。
よっく火を近づけてみると目がひかっている。

「もしかしておめえきつねじゃねえか。」
竹三郎は言った。
 
コーン  コーン

あまえたような声でないた。人なつっこいきつねで、いく度となくないていた。
そのきつねをみると竹三郎はかわいくなり、
「ほれ、これを食べれ。」
と言い、ほし柿を半分やった。

「うめえか。」

とあと半分やった。竹三郎ときつねは、それから仲よくなった。

 十二時半を打った時、   
ガラ ガラと戸をあける音がした。

「竹三郎か。」
母が言った。
「ああ、おかあ今帰ったぞ、一人友達とであってな。」
きつねとあったときのことをおかあに話してきかせた。
 はじめはしん
じんようなかんじだったけどそのうちしんじたのかちゃんときいてくれた。

 竹三郎のやさしさを忘れなかったきつねは次の日、竹三郎の家に来て、もちをおいていったとさ。

 山姥と親子