雪  の  花

 昔々なぁ、村のはずれにでっかい沼があったんだってそこにはなぁ、カッパが住んでおったそのカッパはな、悪いやつではなかったがな、村のしゅうには、こわがられていたそうな。
 その沼の近くに一軒の家があったんだって。
その家は、親一人、子一人だったそうな。その親は、えらい子をかわいがっていたそうだ。

子は、村に少しはずれているので、友だちもおらんで、一人で遊んでいたそうな。
夏になれば、近くの川さいって水遊びをし、冬は家の小屋で一人ポッンとおったとさ。

 秋のある日、その子は沼へいったそうな。
親から、いっつも「沼には近よっちゃならねえぞ。」
といわれていたが、その子は沼に行ってみたそうな。

沼にはな、なんの気配もなかった。
けれど、少したったらな、カッパが出てきたもんで、子はびっくらこいたが、そのうち立ちあがって、カッパ
に近よったんじゃ。
 カッパは、悪いやつじゃなかったもんで、その子に話しかけた。

「おい、なにしとるんじゃぁ。」
「おらぁ、あそびにきたぁ。」
カッパは沼からあがり
「どうだ、わしと、すもうでもするかぁ。」
と、話がまとまり、カッパとすもうをはじめたんじゃ。
その日で、子とカッパはなかよくなったんじゃな。
次の日も次の日も、沼にいっちゃぁ、カッパとすもうをしたんだそうな。

 ある日、まだ太陽がかくれっこあったころ、その日も子は、沼にいったんじゃ。
そしてな、夜になり、満月もでたんじゃ。
だが、その子は、家にかえってこんかったんじゃ。
 その子の親はこまってな、きっと、カッパがつれていったと思って、沼にいった。

沼に行く道は、いつもとちがって、ぶきみだったそうな。
親は、必死だったもんで、そのぶきみさもわからっこ、かた手によきをもって走ったそうじゃ。

「おらぁの子、カッパめ、かえせ。」
よきをふりまわし、沼へ沼へとむかったそうな。
「だいじな子を、つれていきやがって………。」
こんなことをいいながら走ったそうな。
息をきらし、沼についたそうな。
親は沼を見わたしてみると、沼のむこうにカッパと子がおったそうな。
「そうら、もういっちょこい。」
子はカッパと楽しく遊んでいたそうな。
だがな、その姿はな、親には見えんかったんじゃ。
親はな、よきをぎゅっとにぎりしめたそうな。

そしてな、カッパをにらみつけ
「おらぁの子をかえせ。」
といって、よきを、カッパめがけてなげたそうな。
 
 よきは、けものがうさぎをとるようにとんだそうな。
それは、一瞬のことで、よきは、カッパの頭につきささったんじゃ。
カッパは、沼の中にたおれてな、沼にしずんで、死んだそうな。
また、よきもしずんでいったそうな。

「おーい、カッパよ、でてこいよぉ。」
 子の声が、沼のまわりにひびきわたったそうな。
沼は、なにどともなかったように明るくなり、朝になったそうな。

 その後、その沼のまわりに花がさいたそうな。
親は、その花を「よきの花」とよんだんじゃ。


 はじめは「よきの花」だったが、年月がたつうちに「雪の花」となってつたわったそうな。
だがな、子は、すごくかなしんで、親はこうかいしてな、その「雪の花」をたいせつにしたんじゃ。

 与吉と山男