狗賓(ぐひん)さまの行列

  

「おめえたち、あんまりわるさがすぎると、山奥におる狗賓(注さまが、

ばちをあ
たえるぞ」

おばあがいうと、子どもたちはあまりおだやかではおれん。

 みんないたずらこぞうたちで、夏にはすいか畑をあらしたり、秋には

よそ
の甘柿を、そのうちの人よりも先に食ったりしとったもんでだ。

「おばあは、おれたちをおどしておるんずら」

「ばかいうでねえ。狗賓さまは、いつもおめえたちのすることを、じい

っと見
ておるんだ」

「それがほんとうなら、見てえもんだ」

「見せてやる。晩になったら、おらほの庭へこい」

 こぞうたちは、その晩おばあの家にあつまった。

まだ日がくれるには間のある時分で、目のしたに見える遠山川がだんだん

夕やみに変わっていくのを見ておった。

そこは今の昭和通りのような町並みもなく、一面の河原だった。 

山のりょうせんには山原集落の家々にともるランプのともしびがまたたい

ておった。

 夜のやみがいっそう濃くなり、夜川瀬の山や底稲の山のりょうせんが

くっ
きりとしてきた。

「いいか、物音をたてちゃいかんぞ」

 おばあにいわれ、こぞうたちは身動きもしなんで、狗賓さまのあらわれ

のを、今か今かと待っておった。

 けれど、とうとう狗賓さまはあらわれず、次の晩も、そのつぎの晩も見

ことはできん。

「おばあの、大うそつき」

 こぞうたちは、こわかったもののがっかりしたような顔で、あくたいを

って帰っていった。

 ところが、
それからいく日かたったある晩、

  「今夜こそ、狗賓さまが見れるぞ。早くこい」

おばあに呼ばれて、またこぞうたちがあつまった。

 おばあの庭でじっと待っておると、とつぜん、底稲の方角にキラキラ

光る
ものがあらわれた。はじめは一つか二つだったのが、どんどん増え

ていって、
何十、何百となると、だんだん光るおびは、まるでこっちに

せまってくるよ
うで、その異様な光景に、さすがのいたずらこぞうたち

も、ひとかたまりに
なっていいあった。

「あれが狗賓さまなんだ」

「おらあ、狗賓さまを見たぞ」

 そうすると、おばあが大きい声でいった。

「見たろうが。狗賓さまは本当におるんだぞ」

 それからは、こぞうたちも、いたずらはせんほうがいいなと、本気で思ったようだ。

 村人のなかには、狗賓さまにちょうちんの火をとられて、まっくらな肥だめに落ち

たっちゅうものもあったで、ちょうちんの火だけはとられんほうが
いいずらな。



(注) 狗賓さま…この地方では、「ぐいんさま」という

 小道木の禰宜さま