小道木の禰宜さま(こどうきのねぎさま) |
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遠山でお蚕さまをかったり、紙の材料にする楮(こうぞ)の皮をとる時分の話さ。
なにしろ、そのころはほかに現金収入がなかったもんで、楮はそりゃあたいせつ
なもんだった。
ところがある年、おだるが大発生した。
おだるっちゅうのは、毛虫の一種で、これが出て桑や楮の葉を食べだすと、たい
じしてもたいじしてもどっかからかあらわれて、一晩で食いつくすという、恐ろ
しい毛虫だ。
「こりゃあ、えれえことになっちまった」
村中がおおさわぎになった。
「こうなったら、神だのみだ。小道木の禰宜さまにおがんでもらうか」
ちゅうことになった。
小道木に住んどった禰宜さまの祈とうは、たいそうきくというひょうばんだ
った。
禰宜さまは二つ返事でひきうけると、熊野神社にこもって、何時間も一心に
おがんでおった。
村のしゅうもそのあいだ、けいだいでずっとおがみつづけておったそうだ。
祈とうがおわると禰宜さまは、熊野神社のご神木のとこへいっておはらい
をして、一枝を切りおとした。
それを燃やして灰をつくると、その灰をざるにあつめて、桑畑や、楮畑にいき、
「千羽鳥こーい、千羽鳥こーい」
と、いいながら、灰をまいた。
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そうすると驚いたことに、五分もせんうちに、どこからともなくカラスの
大群があらわれて、みるみるおだるを一匹のこらずついばんでしまったと。
村のしゅうは、これでたいせつな財産が助かったと、たいそうよろこん
だということだ。
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