池口の竜神さま

 かし、池口には大きい池があり、その底は諏訪湖とつながっておったそうな。

それで、村では諏訪明神として、ずーっとお祭りをしておったと。 

また、この池には大蛇がすんでおって、竜神さまってよばれて、たいそうあがめら

れておったそうな。

 それは、次のような雨乞いの話があるもんできいてくりょ。

 かんかんでりの天気がつづいて、畑の作物もなえ、川の水もかれるようになると、

この竜神さまにお願いして、雨を降らしてもらうように、雨乞いをすることになる。

 まず、この池のふちのがけの上に、子安さまっちゅう社があって、そこへ村の長

老が集まって、雨乞いのそうだんをする。

「このまんまじゃあ、作物はだめになっちまう。早く竜神さまに頼んで、雨を降ら

せてもらわめえか」

 このそうだんがまとまると、雨乞いの神事をやることになる。

 白装束に身をつつんだ村の長老が、子安さまの神社の庭に集まり、村のおとなも

子どもも大ぜい集まってくる。

 そこで、禰宜さまが、子安さまのほこらにむかって祝詞を唱え、太鼓を打ち鳴らす。

「八百万(やおよろず)の神さま、竜神さま、雨たまわれよー」

 禰宜さまが大きい声で唱えると、集まっておった大ぜいの村のしゅうたちも、

「雨たまわれよー」

と、声をはりあげる。

 また禰宜さまが、祝詞を唱え太鼓を打ち鳴らし、

「雨たまわれよー」

という。

 村のしゅうは前よりもっと大きい声で、

「雨たまわれよー」

と、天にむかって叫ぶ。

 池の底の竜神さまのとこまで、その声はひびいていくんだと。

そうすると竜神さまは、

「ああ、村のもんは雨が降らんで、こまっとるな。そういやあ、この池の水も少

なくなってきて、息ぐるしくなってきた。どれ、天にのぼってひとあばれしてく

るか」

 竜神さまは、雲をよんで天にのぼると、天上せましと大あばれをする。

やがて雨が降りだし、たちまち滝のようなざあざあ降りになる。

 畑の作物は生き返ったように元気になり、池の水もどんどん増してくる。

 村のしゅうは雨の中でおどりまわって、

「ありがたや、ありがたや、竜神さまが願いをかなえてくださった」

と、ますますあがめたてまつったということだ。

 ところがこの池口の池は、その後おこった遠山の大地震で、池の

水がいっきょにおしだされ、そのあとに大島や漆平島、尾之島、松

島なんぞができたということだ。

 その時から池のぬしの竜神さまは、諏訪湖にうつりすんだって。

 大蛇にみこまれた娘