おふみについたくだしょう

 くだしょうっていうのは、ネズミとリスのあいのこのようなけもので、人の家の天井や、

くらい縁の下とか、おしいれなんかにすんでおるっていうが、人には見えんやっかいなま

ものだっていわれとる。

 これを上手にかいならすと、お金をはこんできてくれて、その家はさかえるそうな。

ところが困ったことに子どもをたくさん生んでえさがたりんようになると、近所にいって

わるさをするようになるんだって。


そうなったときは、遠州の山住さまからお札をもらってきて、家にはった。

 また、きゅうにお金もちになったとこは、くだしょうがついたってきらわれて、つきあ

いをしてくれんようになる。くだしょうってやっかいなもんな。

 そのくだしょうが、おふみという女の子にとりついたお話な。

 それはこんなぐあいだ。

 
おふみは、かぜをこじらせてながいことねこんでしまった。

 ある日、とつぜん

「くまじいを、ちょこっとおしたらこけて足を折っちまった。おらにいじわるをしたで、

いい気味だ」

そんなうわごとをいいだした。

するとその通り、くまじいは足を折っちまった。

 また、

「たつじいの病気は、おらが病ましておるんだ」

というと、たつじいが本当に病気になってねこんじまった。

 二、三日後、

「おっかあ、となりのうちでぼたもちを食っとる。おらあになんで食わせん」

とうわごとをいうと、となりのおばあが、

「おふみちゃんはどうかね。ぼたもちをつくったで、食べさせてやってくりょう」

とやってきた。

 おふみは熱が高くてうわごとをいっておっても、持ってきてくれたぼたもちを、

ぜんぶうまそうにムシャムシャ食べちまう。

 そこで、家のもんは、

「こりゃあ、なにかつきものがついた。くだしょうかもしらんで、石屋のおじいに

たのんで、おはらいをしてもらうか」
 
 となり町の石屋のおじいは、かじやが本業で石屋もやるっちゅう器用な人で、

おまじないもよくやる。

 おふみのお父
(とう)の話をきいた石屋のおじいは、

「そりゃあ、まちがいなく、くだしょうがとりついとる。よしよし、すぐいってやるで」

 石屋のおじいは、神だなから金山さま
(注)の剣(つるぎ)をとりだして、それをもって

おふみの家へきた。
 
 石屋のおじいの家には、まご娘でおふみとおない年の、お里っちゅう女の子がおったが、

くだしょうのおはらいって、どんなことをするのか見たくてたまらん。

家のもんは、

「お里、くだしょうのついた子どものそばへいっちゃあだめだ」

と、いうのを、かくれておじいについていって、おじいのやるとこを見ておった。



 おじいは白装束になって、おふみの枕もとで金山さまの剣をふりまわして、

おまじないのじゅもんをとなえる。

そのうちとつぜん、

「ええーい、やっ」

と、どでかい声をはりあげた。

 しばらくすると、おふみはわるいつきものがおちたのか、
ぐっすり眠っちまった。

 家にかえったお里は、さっそくおじいに話をきいた。

「おふみはなあ、くだしょうもちの家の子と、けんかをしちまったようだ。お里も

気をつけんとあかんぞ」

 お里は、わたしはお金もちじゃないし、もしくだしょうがついても、おじいが、

すぐおっぱらってくれると思って安心しとったってな。



注) 金山さま……かじや、石屋など職人のまもり神

 
狗賓さまの行列