大入道に化けた狐

 

 むかし、上木沢の遠山川に、いつもたくさんな魚のとれるとこがあった。

村人たちは、よくこの場所で魚釣りや、網打ちをしておった。

 ところが、その近くに大きな洞穴があって、そこに一匹の狐がすみつき、

せっかくとった魚をとっていっちまうようになった。

 この狐、なかなか頭がよくて、どんなに気をつけておっても、あの手こ

手で魚を横取りしていくので、村人もほとほと困っておったんだって。
             
 あるとき、村のひとりの若者が、

「よし、なんとかあの狐をこらしめて、魚をとってやる」

と、夜中に遠山川へでかけていった。

洞の人口へつくと、そーっと中をのぞきこんだ。
なにやらごそごそ動い

ておる。


「しめしめ。よーし、思いしらしてやるぞ」

 若者は、洞の入口に大量の藁(わら)とあお草をつみあげ、それに火を

つけた。たちまちもくもくと洞のなかへ煙がひろがっていく。

さすがの狐もこれには参ったようで、

「コン、コン、コン」


とむせながら、近くのやぶへいちもくさんに逃げていった。

 そこで若者は、してやったりと火を消し、魚をとりはじめた。

うつ網うつ網にたくさんな魚が入り、すっかりいい気になった若者は、

口笛なんか吹きながら、

「これで狐もこりたろう。今日はひさしぶりのたいりょう、たいりょう」

などといっておると、すぐうしろで、

「どうだ、たんととれたかー」

腹にズシンとひびく低い声がした。 

若者は、心臓がとびださんばかりびっくりして、うしろをおそるおそるふりむくと、

一つ目のそれはそれは大きな入道が、口からまっ赤な舌をのぞかせて立っておる。

「ぎやーっ」

と、さけんで、若者はとびあがり、そのまんま遠山川にざぶーんと
落ちちまった。

 とった魚はもちろん、たいせつな綱もそのまんま、しりに火がついたように家

へ逃げかえってきた。

 びしょぬれになった若者は、ひどいかぜをひいて、

「コン、コン、コン」

と、一月もねこんじまった。

                
 このことがあってから、村人はむやみに狐を追いだそうとはしなんで、とれた魚

の二、三匹は、洞へおいてくるようになった。

 それからは、だれがいっても、魚はたんととれたそうな。

 女に化けた狐