『夕焼けの君』










「あ、おはよ田辺」
「お‥はよ」


朝から森島に会ってしまった‥。

昨日の今日で、なんかこそばい。


C組の森島は、B組の前を友達と通り過ぎていく。

「森島、田辺と仲いいん?」
森島と同じバスケ部で同じクラスの‥‥‥名前忘れた。

そいつの問いかけに「んー」と適当に返す後ろ姿。

相変わらずかっこいい。

背が特別高いわけじゃないけど、肩幅と肩甲骨と、腰の細さのバランス。
斜めかけの部活指定のバッグをおさえる、大きな手。
ちょっと長めの、毛先をツンツンにセットしてある黒髪。
横顔。声。


って、見過ぎだ。俺のバカ。

逃げ込むように教室に入り、窓際の自分の席につく。

ざわざわと賑わう教室を眺める。
森島は、隣のクラスの一番前の席。

見えもしないくせに、きっと今頃大勢の友達に囲まれてるんだろうな、なんて想像してしまう。


「田辺はよーす」

木村が近づいてきた。こいつもバスケ部。バスケ部なのに坊主頭で、ラグビー部並みにガタイがいい。身長が180近くあるから、いつも見上げる。

で、クラスで唯一、俺がまともに会話する奴。


「おはよ」
「田辺、数学のプリントやった?」
「やったよ。合ってるかはわかんないけど」
「んじゃ後で合わせよーぜ」

頷いたところでチャイムが鳴って、先生が入って来た。


今日も天気がいい。
風も緩くて気持ちいい。


カメラ持って、外に行きたいなー‥。


あ。

今日午後番で部活に行けないんだった。先輩の所に言いに行かないと。
一時間目は移動教室。教科書とノートをまとめて持ち、今のうちに行こうかなと廊下に出る。

三年生の教室は二階だ。階段を降りると廊下にいくつものグループがたむろしていて、ちょっと気がひける。

B組の教室の前に行くと、丁度坂井先輩が出てきた。

「あれ田辺、どした」
「おはようございます。あの俺、今週午後番なんで部活休みます」
「ああ、りょーかい。頑張れよ〜」
「はい。それじゃ」

そそくさとその場を離れ、化学室に向かう。


窓の外は深い青空。

部活、やりたかったな‥。

自分専用のカメラがあればな。でも高いし。

部室にあるのは、古いフィルムの一眼レフが2台と、三脚が1台だけ。

でも写真部のほとんどは幽霊部員で、まともに活動してるのは俺と部長の坂井先輩だけだから、特に困らないんだけど。
とはいえ、普段持ち歩いて壊したら大変だから、部活の時間以外は大抵部室に置いたままだ。
勿体ないけど仕方ない。



今日の当番、何やらされるんかな‥‥。

朝からもう憂鬱になってしまった。









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