『小宮と滝沢』








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夏休みは、毎日学校。


家に居たくないし、
村の図書館は子供ばっかだし、
休み中の教室には誰も来ないから。


「小宮、今日も来てるのか」


国語担当のオジサン大野先生は、”歳のせいで”出始めたお腹を揺らして歩く。


「毎日花壇の手入れして感心だな」


容赦ない日差し。
次々伸びる雑草。
淡々とした作業。


思っていたより植物を育てるのは大変だったけど、いい大義名分になってる。




「小宮は友達と遊びに行かないのか」

相槌ばかりの反応に、弓道部兼園芸部の顧問の先生は質問を重ねてくる。


「遊んでないで勉強やれって言われましたけど」

「そりゃー大前提だけどな。でもせっかくの休みに学校ばっかじゃつまらんだろ」

「はあ‥‥」


つまらなくていーんだよ。


宿題解らないとこあるかとか幾つか訊かれたあと「熱中症には気を付けろよ」と言って去って行った。


ぬるくなったペットボトルのお茶と、栄養補給のお菓子。

日に焼けた腕と、カラカラに渇いた喉。

虫の声しか聴こえない教室。




何故か今突然、『ああ、今生きてたんだ』と、


気付いてしまった。








夕方5時。持ってきた宿題が終わって、暇潰しの図書館も閉まり、教室に戻った。


まだこんな時間かと思うと途端に、疲れてもいない身体が疲弊する。


高校生になってまだ4ヶ月。生活のサイクルにも慣れてきたし、不満も無い。

でもここも3年後には居なくなって、そうやって留まらずに変わっていく。



不確かな未来が嫌になって、机に突っ伏して目を閉じる。
窓側の一番後ろの席に、風が流れる。

頭の中を真っ暗にして、
何も考えないように、
何も聴こえないように、
暗闇を見つめる。


怖い世界から逃げても、どうせその時は来る。


けど、逃げる方法しか知らない。



逃げる以外、選択肢が無い。








気配がして脳を起こし、

直ぐに学校だったと気づき目を閉じる。


「小宮、毎日来てるの」

「‥‥ああ」

「草取りありがと」

「‥‥ああ」

寝惚けた目で窓の外を見る。

「水やりして帰る」

「今やってきたよ」

「そっか‥‥」

「‥‥」


暑い室内、

浮遊感、

安心感、

存在感。




そうか。

ここに来ればいい。




そうすれば、



1人じゃない。











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