『小宮と滝沢』 11 夏休みは、毎日学校。 家に居たくないし、 村の図書館は子供ばっかだし、 休み中の教室には誰も来ないから。 「小宮、今日も来てるのか」 国語担当のオジサン大野先生は、”歳のせいで”出始めたお腹を揺らして歩く。 「毎日花壇の手入れして感心だな」 容赦ない日差し。 次々伸びる雑草。 淡々とした作業。 思っていたより植物を育てるのは大変だったけど、いい大義名分になってる。 「小宮は友達と遊びに行かないのか」 相槌ばかりの反応に、弓道部兼園芸部の顧問の先生は質問を重ねてくる。 「遊んでないで勉強やれって言われましたけど」 「そりゃー大前提だけどな。でもせっかくの休みに学校ばっかじゃつまらんだろ」 「はあ‥‥」 つまらなくていーんだよ。 宿題解らないとこあるかとか幾つか訊かれたあと「熱中症には気を付けろよ」と言って去って行った。 ぬるくなったペットボトルのお茶と、栄養補給のお菓子。 日に焼けた腕と、カラカラに渇いた喉。 虫の声しか聴こえない教室。 何故か今突然、『ああ、今生きてたんだ』と、 気付いてしまった。 夕方5時。持ってきた宿題が終わって、暇潰しの図書館も閉まり、教室に戻った。 まだこんな時間かと思うと途端に、疲れてもいない身体が疲弊する。 高校生になってまだ4ヶ月。生活のサイクルにも慣れてきたし、不満も無い。 でもここも3年後には居なくなって、そうやって留まらずに変わっていく。 不確かな未来が嫌になって、机に突っ伏して目を閉じる。 窓側の一番後ろの席に、風が流れる。 頭の中を真っ暗にして、 何も考えないように、 何も聴こえないように、 暗闇を見つめる。 怖い世界から逃げても、どうせその時は来る。 けど、逃げる方法しか知らない。 逃げる以外、選択肢が無い。 気配がして脳を起こし、 直ぐに学校だったと気づき目を閉じる。 「小宮、毎日来てるの」 「‥‥ああ」 「草取りありがと」 「‥‥ああ」 寝惚けた目で窓の外を見る。 「水やりして帰る」 「今やってきたよ」 「そっか‥‥」 「‥‥」 暑い室内、 浮遊感、 安心感、 存在感。 そうか。 ここに来ればいい。 そうすれば、 1人じゃない。 ●← 11 →● TOP |