『小宮と滝沢』








12



夏休みの間、1日置きに学校に行くことにした。


違うな。

行くようになった。


小宮が毎日来てるのを知ったからでもあるけど、
花壇のミニトマトが大量に色づき、収穫に行くようになったからだ。



「ミニトマトは好きだけど、いくらなんでも食べきれない」



熟し過ぎて実が割れてきたトマトを見ながら、
小宮は悲しそうに、というより悔しそうに言っていた。





電車に揺られながら ビニールの買い物袋に入ったトマトの重みを追うと、小学生の時を思い出す。


4年の夏休み。解放プールの帰りに、学校の畑にあったミニトマト。

植えるのだけ自分達でやって、あとは講師のおばちゃんが全部手入れしてくれた。

それを帰り際むしりとって、お腹を満たして帰った。


お盆休みを終えて畑に行くと、

ミニトマトは割れて潰れてカビが生え、
葉は枯れて、
雑草が繁り、


誰も畑には近寄らなかった。







「なーに、またトマトぉ?」

「学校の畑で沢山取れたんだって」

「ったって、最近3食トマトじゃん」


姉と母の会話を遠くで聞き流し、もくもくと食べる。


「まだ酸っぱいのもあるし、これ熟れすぎだし。大きさも揃ってないし。
まるであんたみたい」

もくもくと、

「料理はできるけど頭良くないし、友達できないし地味ーなことばっかして」

何も聞かない。

「不揃な生き方ー。あたしみたいに揃ってなきゃ」

「お姉ちゃんは何でも出来るからね」

「ちょっと聞いてるー?」




聴こえない、なにも



聴かない。









花壇には、まだ ある。

「トマトって、ほんと沢山生るんだな」

「‥‥ん」

「滝沢、どしたん」

「ん?」

「トマト飽きたか」

「‥‥違うよ」

「他も試せばよかったな。胡瓜とか」

「揃えるって」

「あ?」

「一緒にするって、難しいな」

「は?」

「色とか、大きさとか」

「だから良いんじゃないの」

「え」


目の前のを1個取って食べる。


「大きいのは柔らかいし、小さいのは歯ごたえいいし、甘いのも酸っぱいのもあるのが良いんじゃん」

「‥‥」

「揃ってるなんて不自然なものは嫌だ」


キッパリと言ってしまう。
小宮は。

「‥でも人と人との間で自然って難しいよ。偽ってばっかだし」

「まあね」

「‥小宮は、偽るの嫌い?」

「‥‥いや。偽られるのが嫌だ。何が本当で何が嘘か、解らないのが嫌だ」

「ひとのためって書いて偽るだけど」

「結局、自分の為の場合のが多いじゃん。そーいうの」

「‥‥まあ」

「それが必要な奴も居るだろうけど、でも、偽るのが正しいって訳でもないじゃん」


ぷちぷちと、草を抜く手。


「揃えるために偽ってばっかなんて、何のためなのか解んないな。だったらそのまんまでいーじゃん」


枯れてきた葉をちぎり、抜いた草の上に置く。

夕焼けが静かに始まる。




許されたような、


勿論そんなの勝手にだけど、


「‥‥ありがとう」

「は?何が?」


「何となく、言いたくなっただけ」


下を向いたまま顔を上げられない。


「‥‥じゃあ、ジュース奢って」

「へ」


「お礼を言われることをした記憶は無いけど、お礼を言いたくなったならジュースの方がいい」

「‥‥パックな」

「ボトル」

「‥‥」

「‥‥ふっ」

「パック!」

「はいはい」



よくわかんないけど いいや。




結局、缶ジュースを買って2人で飲みながら、

トマトの入った重い袋を提げて 帰った。








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